2018 Fiscal Year Research-status Report
High performance secondary ion mass spectrometry using vacuum-type electrospray droplet ion beams
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17K05119
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
二宮 啓 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10402976)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 二次イオン質量分析 / エレクトロスプレー液滴イオンビーム / 二次イオン収率 / スパッタ率 / 有効収率 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の研究開発においては、真空エレクトロスプレー液滴イオン(V-EDI)ビームを二次イオン質量分析(SIMS)の一次ビームとして最大限活用していくにあたり、1つの液滴イオンが試料に照射されたときのスパッタリングの効率(スパッタ率)や二次イオン生成の効率(二次イオン収率や有効収率)を精密に計測することを試みた。そもそもV-EDIビームとは真空下での水溶液のエレクトロスプレーによって発生させた帯電液滴であるが、その質量や価数は実際どの程度の値なのか不明であった。液滴イオン(帯電液滴)の真の姿とスパッタ率や二次イオン収率との相関を明らかにすることで、二次イオン質量分析を高性能化する際の基礎データとして利用できる。 スパッタ率については、1つ1つの液滴イオンが平坦な表面に衝突したときの照射痕を原子間力顕微鏡(AFM)で観測すること、および液滴イオンビームを平坦な試料に長時間照射したときに削れた深さを段差計で測定するという2種類の方法で評価した。この際、単位面積あたりの照射痕の数を計測することで液滴イオンの価数についても評価した。二次イオン収率については、市販タイプの飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)装置にV-EDI銃を設置して二次イオンスペクトルを取得することで評価した。1入射イオンあたりに検出される二次イオン数が二次イオン収率であるが、それを精密に評価するにはスペクトル測定中に照射された液滴イオンの総数が必要となる。液滴イオンの総数については、単位面積あたりの照射痕数から実験的に求められた価数を利用し、精密な二次イオン収率を算出した。さらにSIMSの性能を判断する重要な指標として、試料1分子の消費により発生した二次イオンの検出数で定義される有効収率があるが、この有効収率についても実験的に精密に測定した二次イオン収率とスパッタ率の比から評価することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は革新的な巨大クラスターイオンビームである真空エレクトロスプレー液滴イオン(V-EDI)ビームを最適な条件で照射することにより、有機デバイスや生体組織などの実試料を従来のクラスターイオンビームでは到達できない圧倒的な性能で深さ方向分析やイメージング分析を実現することにある。昨年度までの研究開発により、試料電圧パルス化法のパルス幅や印加電圧などのパラメータを調整することにより1000以上の質量分解能が得られることを確認した。またV-EDIビームによるスパッタ率や二次イオン収率も精密に評価することができた。さらにはあるイオンビームを用いたときのSIMSの性能を判断する重要な指標である、試料1分子の消費により発生した二次イオンの検出数で定義される有効収率を実験的に算出することができた。同型の飛行時間型二次イオン質量分析装置においてV-EDI、現在市販装置で最もよく利用されるBiクラスター、および巨大Arクラスターを一次イオンビームとしてペプチドなどの有機試料の二次イオンスペクトルを測定したところ、V-EDIによる二次イオン収率はBiクラスターや巨大Arクラスターよりも3桁以上高いことが新たに判明している。以上のことからV-EDIビームを用いることにより二次イオン質量分析の性能をさらに大幅に改良できることが明らかとなってきており、おおむね当初の計画通りの研究開発を遂行できていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は真空エレクトロスプレー液滴イオン(V-EDI)ビームを二次イオン質量分析(SIMS)に活用していくための基礎データを収集するとともに、市販タイプの飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)装置にV-EDI銃を設置して二次イオンスペクトルを取得し、V-EDIビームによる二次イオン収率や有効収率を明らかにしてきた。今後は有機デバイスや生体組織といった実試料において従来にない性能をもつ深さ方向分析やイメージング分析が実現できることを実験的に証明していくことを予定している。現在V-EDI銃を設置しているTOF-SIMS装置では、全二次イオンのイメージ像を投影モードの測定によって取得できるが、二次イオンを選別した上でイメージング分析を実施することができない。そこで質量分析計内に新たに二次イオンをパルス化するための電極を設置し、特定の二次イオンを抽出した上で質量分析イメージングを行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度においては、本学工学部入試委員の補佐代表(学部で1名)としての業務があり、さらには大学入試センター試験における補佐代表(大学で1名のみ)でもあったため極めて多忙であり、当該年度の所要額のうち6割程度の支出に留まった。しかしながら、研究実績の概要や現在までの達成度で記載したように、研究はおおむね順調に進んでおり、また論文発表や研究発表もかなり多く達成することができた。次年度においては、今後の研究の推進方策で述べたように、質量分析計内に新たに二次イオンをパルス化するための電極を設置し、特定の二次イオンを抽出した上で質量分析イメージングを行っていくための装置改良を予定しており、その費用に充てることを計画している。
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Research Products
(14 results)