2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K05163
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 正俊 東京工業大学, 理学院, 准教授 (30534052)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 整数論 / ゼータ関数 / L関数 / モデル空間 / フレドホルム積分方程式 / 共役線形作用素 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究によって,本課題の対象であるゼータ関数から生ずるある種の関数空間を研究する手法が,本質的かつ大幅に改良された.昨年度までの手法では,我々はRiemannゼータ関数に代表される,いわゆる自己双対的なゼータ関数やL関数から生じたものしか扱うことができなかった.しかし,こういった対象の制限は,本年度に成された研究手法の改良により取り除くことができた.より詳しくは,Selbergクラスと呼ばれる大きなゼータ関数・L関数のクラスなどに対して,それに属する関数の零点分布などを,ある種のHilbert空間とその上の作用素の性質に結びつけて論ずることが,対象の制限なしに可能になった.このような改良は,昨年度までの研究手法で用いていた線形な作用素の代わりに,ある共役線形な作用素を用いることにより成されたのだが,その際に,昨年度に行った一般のモデル空間に関する研究が大いに役立った.共役線形な作用素は線形な作用素の一般化ではないが,今年度に行った改良は,本課題における従来の手法を包括するものになっている.また昨年度,本研究における従来の手法や議論の簡略化を目的に,これまでに扱っていたものよりも単純な,ある特殊な形のフレドホルム積分方程式を導入していたのだが,今年度の研究により,それが単に従前の手法や議論を単純化するものに留まらず,上記のように手法を改良するために本質的な役割を果たしていることが分かった.これらの成果の一部は研究集会などでアナウンスされたが,理論としては未だ発展の余地を多く残している段階である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究実績の概要に記したような大きな進展が得られ,最終年度である次年度への準備としても,おおむね満足すべき進展が得られたと考えられるため.しかしながら,新型コロナウィルス(COVID-19)流行の影響として,国内外の出張が大きく制限されたことにより,他の研究者と意見を交わす機会は十分には得られなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要で述べたように今年度に本研究の理論は大幅に改良されたのだが,ひとまずの完成形に向けて,理論全体を見通しよく体系的に整理するため,手法や議論などをより洗練して,細部の議論を注意深く見直していく必要がある.最終年度である次年度には,そういった地道な作業を粛々と進め,研究を完成させることを目指す. 来年度に推進する事柄をもう一つ挙げる.本研究の手法をゼータ関数ではなく多項式の根の分布の研究に応用した成果を一昨年度に発表したが,その際に扱うことのできた多項式は実係数のものに限られていた.今年度に成された手法の改良により,それを複素係数の多項式の根の分布の研究に拡張できる可能性が見えたので,そういった事柄についても研究を進めてゆく.このような応用を考察することは,本研究の手法についての理解を深め,理論の完成に資すると思われる.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的流行の影響により,予定していた出張や研究者の招聘が中止または延期となったことで次年度使用額が生じた.その分は,延期となった出張や招聘の日程の再調整や,新たな出張や招聘の企画により使用する予定である.とはいえ,コロナウィルスの蔓延状況については依然先が見通せない状況が続いているため,最終年度の1年延長も視野に入れている.
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Remarks |
研究代表者の研究成果等に関するwebページ
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