2019 Fiscal Year Research-status Report
跡公式とゼータ関数を用いた素測地線とスペクトルの分布に関する研究
Project/Area Number |
17K05181
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
橋本 康史 琉球大学, 理学部, 准教授 (30452733)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | セルバーグ跡公式 / セルバーグゼータ関数 / ラプラシアンのスペクトル / 素測地線定理 |
Outline of Annual Research Achievements |
素測地線定理は体積有限なリーマン面上の素な測地線の本数の長さに関する漸近公式である。その増大度が対応するセルバーグゼータ関数の解析性と深い関連性をもっていることから、素数定理の幾何類似と考えられている。ただし、素数定理については、リーマン予想を仮定すれば誤差項の最良評価が得られる一方、素測地線定理については、セルバーグゼータ関数に関するリーマン予想がほぼ成り立っているにも関わらず、誤差項の最良評価はいまだに得られていない。モジュラー群を基本群としてもつリーマン面に対しては、Iwaniec (1983)がKuznetzov跡公式を用いたアプローチで誤差項評価を行って以降、Luo-Sarnak (1995), Cai (2002), Soundararajan-Young (2013)と少しずつ誤差項評価が改良されてきている。モジュラー群に関するlength spectrumの重複度が不定値2元2次形式の類数で記述できることが知られており、そのため、この重複度をディリクレL関数の特殊値の和としても記述できることがわかる。本研究では、Gauss和・Kloostermann和を含む指数和に関する評価を利用して、モジュラー群に関する素測地線定理の誤差項評価を改良した。 この研究成果については、すでに国内研究集会で発表し、論文としてまとめ、(査読なしの)e-print arxiveに公表している。ただし、一部誤りが指摘されたため、一旦取り下げ、誤りを訂正したうえで国際学術誌への掲載を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初2019年度には、合同部分群に関するLength spectrum の研究をコンパクト数論的多様体や高次元な多様体へ拡張する計画だった。この件については、部分的な成果を得ているが、まだ公表するには至っていない。一方で、モジュラー群に関する素測地線定理の誤差項評価は、これまでのLength spectrum に関する研究において蓄積された知見を活かして得られたものであり、新しいアプローチを提示できたという観点から非常に有意義であったと考える。 以上、計画どおりに進まなかった研究もあるが、当初予期できなかった成果も得られたことも総合して考え、「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究では、モジュラー群に関する素測地線定理の誤差項評価を行ったが、これはモジュラー群に関するLength spectrumに関する数論的な表示を利用して得られている。合同部分群や一部の数論的な余コンパクト群についても同様の数論的な表示があるため、今後は、これらの群に対しても誤差項評価を改良し、高次元多様体へと拡張する。加えて、この誤差項評価で得られた成果や手法をセルバーグゼータ関数の評価やラプラシアンのスペクトルの分布に関する研究へも応用する。
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Causes of Carryover |
2020年3月に参加を予定していた学会がCOVIC19の影響で中止になったために次年度使用額が発生した。次年度もしばらくは、学会・研究集会の多くが中止・延期されるため、関連分野の書籍や研究資料の購入を予定している。
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Research Products
(6 results)