2017 Fiscal Year Research-status Report
4次元3次超曲面上の層のモジュライと既約シンプレクティック多様体
Project/Area Number |
17K05212
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
永井 保成 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50572525)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 代数幾何学 / モジュライ理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
4次元4次超曲面上の5次の正規有理曲線,あるいはそれを台として持つような層のモジュライ空間の幾何学的構造について,ドイツ・マインツ大学の Manfred Lehn 教授と共同で研究を行っている.この種のモジュライ空間の上の普遍層 (universal sheaf) に対して,Kuznetsov の射影と呼ばれる,3つの変異 (mutation) をつぎつぎに行って得られる対象に付随する行列式直線束について考察を重ねてきた.普遍層の Kuznetsov 射影は一般には層にはならず,連接層の導来圏の対象,すなわち,長さ有限の連接層の複体になる.この直線層に付随する有理写像がもつ幾何学的性質に注目している.平成29年度の研究ではモジュライ空間の一般の点,すなわち,本物の5次正規有理曲線の上では,この有理写像は局所同型になることが,コンピュータなどを援用した具体的計算によって確かめられた.一方,モジュライ空間の境界には,正規有理曲線,あるいはそれに付随する層の極限として得られる退化した曲線,あるいは層があり,それらに対応する点で直線束,あるいは有理写像がどのように振る舞うかを明らかにするのがこの種の研究の核心部分である.平成29年度の研究では,退化した層が超平面に含まれるような場合に対応する点の軌跡として得られる因子が行列式直線束の完備線形系の固定因子になることも計算によって確かめた.有理写像の性質を調べるには,固定因子を取り除いて得られる線形系を考える必要があるが,これはすなわち,不変層の Kuznetsov 射影そのもの行列式直線束を考察するのではなく,Kuznetsov 射影として得られた層の複体に対し,ある種の基本変換 (elementary transform) を施したものの行列式直線束を考える必要があることを示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はドイツ・マインツ大学の Manfred Lehn 教授との協力関係の下,研究代表者が単独で遂行する研究であるが,昨年度は研究代表者も Lehn 教授も本務大学の業務でかなり多忙であり,実質的な研究を行うことができるのは,夏季休暇などの長期休暇時に限られている.この点は研究開始時から織り込み済みではあったが,研究の進展の足枷になっていないとは言えない.平成29年度は Lehn 教授が9月に東京を来訪し,3週間程度集中的に研究を行い,着実な進展を得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のアプローチでは,行列式直線束がモジュライ空間の境界因子でどう振る舞うかを把握することが核心部分であるが,層の台が超平面に含まれてしまうような場合に対応するモジュライ空間の因子では,行列式直線束の切断がいつでも消滅してしまうというのは当初予期していなかった現象である.このため,普遍束の Kuznetsov 射影に対して基本変換を施す必要があることが認識された.まず最初に取り組むべき問題は,正しい基本変換を見出すことであるが,ここではモジュライ空間の各点に付随する Kronecker module との関係が見え隠れしている.また,Macri らのグループが,われわれと同じ問題を Bridgeland 安定性の観点から研究しているが,そちらの進展も気になるところである.彼らの研究におけるBridgeland 安定性の構成は,導来圏の中でのスライスの選択と関係している.われわれの研究で必要性が認識された基本変換は,考えている層の複体を「正しい」スライスに入れるための操作に対応すると考えられるので,Macri らの研究がわれわれのコンテクストで意味するところについて考察することも必要であると考える.
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Causes of Carryover |
共同研究実施のため,春季休暇時に研究代表者がドイツを訪問,あるいは,海外の共同研究者が東京を訪問することを計画していたが,双方の研究者多忙のため,スケジュール調整がつかず,実現できなかったため予算額に対して使用額が少なくなった.今年度も引き続き時間の捻出の努力を図るとともに,大学院生のを出張させて情報収集活動を行うなどの方法で研究を推進していきたい.
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