2017 Fiscal Year Research-status Report
スコロホッドの埋め込み及び関連する変分不等式の研究
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17K05288
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
針谷 祐 東北大学, 理学研究科, 准教授 (20404030)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 確率解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ガウス空間上,すなわちガウス確率測度を底の測度にもつ確率空間上に定義されるオルンシュタイン-ウーレンベック半群は超縮小性をもつことが知られている.この超縮小性は底の空間の次元に依らず定式化されるため,マリアバン解析や場の量子論のような無限次元解析において重要である.また,この性質は指数関数型の超縮小性とも同値であることが知られている.平成29年度の研究では,超縮小性におけるべき関数と指数型超縮小性における指数関数の特殊性に関心を抱いて考察を行い,これら二つの超縮小性を包括する不等式の族を確率解析の手法により導いた.その系としてガウス空間上の対数型ソボレフ不等式の拡張も得られる.対数型ソボレフ不等式は,一次の偏導関数が可積分性をもてば元々の関数そのものの可積分性が改善されると主張し,やはり無限次元解析において重要な不等式である.
平成29年度の研究ではその後さらに考察を進め,これらの結果はいわゆるΦ-エントロピー不等式と密接なつながりのあることを見出した.より正確には,超縮小性を包括する上述の不等式の族は,関数Φがある条件をみたすΦ-エントロピー不等式の族と同値であり,この同値関係はオルンシュタイン-ウーレンベック半群を含むより一般のマルコフ半群の枠組みにおいても成立することを明らかにした.なお,本研究成果をまとめた論文を学術誌に投稿済みである(前半部分の研究結果をまとめた原稿はプレプリントサーバ arXiv 上で公開済みである).この研究成果は超縮小性,指数型超縮小性および付随する対数型ソボレフ不等式,そしてポワンカレの不等式(より一般にΦ-エントロピー不等式)を包括する枠組みを与えるものであるため,マルコフ半群とその生成作用素の研究において意義深いものと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に述べた平成29年度の研究成果は,オルンシュタイン-ウーレンベック半群の超縮小性と指数関数型の超縮小性,そしてガウス空間上のΦ-エントロピー不等式を直ちの系にもつ.この点からも,マリアバン解析といった経路空間上の無限次元解析において少なからず意味のある結果であると捉えている.しかしながら現時点の理解においては,当該科学研究費補助金の研究課題であるスコロホッドの埋め込みやそれに付随する変分不等式の解析に即座に結び付くとのものではないため,「やや遅れている」との自己評価に留めることとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」においては「やや遅れている」との自己評価に留めたが,「研究業績の概要」に述べた研究成果を得た際の手法はクラーク-オコン公式や伊藤の公式を組み合わせた確率解析に基づくものであり,本研究課題の基礎付けとなる研究代表者自身の従前の結果の導出に用いた手法に重なる部分も多い.平成29年度の研究においてこのような確率解析的手法の有効性が改めて確認できたことの意義は小さくなく,そこで得られた新たな知見が当該研究課題に引き続き取り組む上で有用となる可能性は十分あると考えている.具体的には,当該研究課題のひとつにブラスカンプ-リーブ(Brascamp-Lieb)型凸不等式の非凸な摂動下への拡張がある.平成29年度の研究ではガウス空間のみならず,ルベーグ測度に対し一様に凸なポテンシャル関数をもつ確率空間上でも,超縮小性と指数型超縮小性を包含する不等式の成立が分かり,なおかつ元来のガウス空間においては超縮小性および指数型超縮小性に対して誤差項を明示した恒等式も得ることができたため,例えば誤差項をより詳しく解析することにより一様凸との制約条件を外して超縮小性を述べられる可能性もある.これによって,ひいては上記研究課題にも結び付くことが期待できる.このように,平成29年度の研究で得た知見を生かして引き続き研究課題に取り組む.
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた理由のひとつに,研究打ち合わせおよび研究成果発表旅費への支出に際して研究費を効率よく充当したことが挙げられる.また,他業務との日程の重複から外国出張を控えたことも理由に挙げられる.平成30年度の使用に際しては,当初より予定している耐用年数近くとなったパソコンやプリンター等の刷新により研究室環境の整備を行い,また最新の理論を学ぶため継続して解析学・確率論関連図書の購入を行うとともに,研究打ち合わせおよび研究成果発表のための旅費を効果的に配分することを予定している.また,本年度の学内外における業務予定を勘案して,当該研究分野の研究者の招聘も検討すべきであると考えている.
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