2018 Fiscal Year Research-status Report
スコロホッドの埋め込み及び関連する変分不等式の研究
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17K05288
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
針谷 祐 東北大学, 理学研究科, 准教授 (20404030)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 確率解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
幾何Brown運動の時間積分により与えられる,いわゆる指数Brown汎関数の確率分布の性質を調べる上で有用な道具の一つにBougerolの等式(1983年)がある.この等式は,独立なBrown運動に指数Brown汎関数を代入して得られる確率変数はBrown運動の双曲線正弦関数への代入に同分布であると主張する.2018年度は,前年度途中からの研究に引き続きBougerolの等式について考察を行った.その結果この等式の成立は,松本--Yorの2000年の結果を援用してある特殊なパラメータをもつ一般化逆Gauss分布の族の性質に帰着されることが分かり,あわせてBougerolの等式のいくつかの拡張を得た.指数Brown汎関数は幾何Brown運動の時間積分で与えられ,従来のBougerolの等式は時間積分の終端時刻が非ランダム,つまり決定論的な場合にその成立が知られていた.主だった拡張の一つに,その決定論的な時刻をBrown運動の汎関数として定まるある拡散過程に関する停止時刻に置き換えても同様の等式の成立することが挙げられ,このことは従来より知られているBougerolの等式の証明からは非自明な拡張である.また同様の手法により,Cauchy分布に従う1次元確率変数がもつ一種の不変性を導いた.これらの研究結果を論文にまとめ,現在学術誌に投稿中であり,プレプリントサーバarXiv.org上でもその原稿を公開している.また,年度内の投稿および公開には至らなかったものの,上記の研究に関連して,指数Brown汎関数の分布を記述する際にも現れるHartman--Watson分布の密度関数に対し,Yorの公式(1980年)として知られる従来の積分公式とは異なる積分表現を見出し,その表現の応用も含めた原稿の準備を投稿に向けて行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」の項目に記載した2018年度の研究成果と,当該科学研究費補助金の主たる研究課題であるSkorokhod(スコロホッド)の埋め込み問題とは,Brown運動との共通の土台をもつものの,直接的な結びつきの強いものではない.そのため,「やや遅れている」との自己評価に留めた.なお,「研究実績の概要」の項目において述べたように,2018年度の主だった研究成果の一つに,従来は決定論的な時刻において成立が知られていた等式の,ある種のBrown汎関数から定まる拡散過程の停止時刻(従って元々のBrown運動に関する停止時刻でもある)の場合への拡張があり,その証明において松本--Yorの2000年の結果が一つの鍵となる.彼らの結果の帰結に得られる事実として,上述の拡散過程の正の値への初期到達時刻における幾何Brown運動の値が,ある特殊なパラメータをもつ一般化逆Gauss分布を実現することが挙げられる.一般化逆Gauss分布という具体的な確率分布の例に対して,(対数をとることにより)Skorokhodの埋め込み問題の解答を与えている,との観点に立てば,この事実は興味深いものであると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」の項目に記載した2018年度の研究成果は,Bougerolの等式およびBrown運動の指数汎関数の研究において意義あるものと考えているが,研究課題の主目的の遂行との観点からは本筋そのものに属する内容とはやや趣を異にするため,「現在までの進捗状況」の項目においては「やや遅れている」との自己評価に留めた.しかしながら,2018年度の研究で得られた知見は,研究目的を今後遂行する上でも有用であると考えられる.Skorokhodの埋め込み問題に対しては,その問題が提唱されて以来,50余年の間に様々な解が構成されているが,「底(てい)のBrown運動の汎関数として与えられる拡散過程の到達時刻をBrown運動に代入することによって,ある特定の確率分布を実現する」との方向性の結果は,知り得た限りでは既存の研究結果には見受けられないようである.「現在までの進捗状況」の項目において触れたように,ある種の一般化逆Gauss分布に対しては上述の実現が可能であり,この事実を足懸りに,より一般の拡散過程を考えることによって汎用的な解の構成法が得られる可能性もある.このように,2018年度の研究で得られた知見を生かしつつ引き続き研究課題に取り組む.
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由として,研究成果発表旅費への支出に際して研究費を効率よく充当したことが挙げられる.また,他業務の日程との重複の都合上,外国出張を控えたことも挙げられる.耐用年数を迎えたパソコンやプリンターが2018年度中は使用に耐えたこともあり,これらの刷新による研究室環境の整備に支出がほぼなされなかったことも理由に挙げられる.2019年度の使用に際しては,パソコンやプリンターなどの刷新により研究室環境の整備に努めるとともに,最新の理論の学習および情報収集のために継続して解析学・確率論関連図書の購入を行う.また,研究打ち合わせおよび研究成果発表旅費を効果的に配分する.2018年度同様に2019年度も他業務の頻度が少なくないことから,その日程等も勘案して,当該研究分野の研究者の招聘等も積極的に検討すべきであると考えている.
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