2020 Fiscal Year Research-status Report
スコロホッドの埋め込み及び関連する変分不等式の研究
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17K05288
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
針谷 祐 東北大学, 理学研究科, 准教授 (20404030)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 確率解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
幾何Brown運動の時間積分により定まる,いわゆる指数Brown汎関数の確率分布の性質を調べる上で有用な道具の一つにBougerolの等式(1983年)がある.この等式は,独立なBrown運動の時間パラメータに指数Brown汎関数を代入して得られる確率変数は,Brown運動の双曲線正弦関数への代入に同分布であると主張する.2020年度は,下記「10.研究発表」の〔雑誌論文〕の項目中,第一件目の研究成果に基づきBougerolの等式について引き続き考察を行い,Bougerolの等式の一つの拡張を得た.この拡張は,確率過程間の同分布性として定式化され,Brown運動の法則がもつある種の不変性を示す.上述の拡張は,正の実軸上の実数値連続関数からなる経路空間上に作用する変換の族を用いて記述される.これらの変換は,Girsanov変換,つまり適合型の経路変換の枠組みには含まれないものであるが,Girsanovの公式に相当する絶対連続性の公式も得られる.この公式のMalliavin解析との結びつきも興味深いものと考えている.なお,Bougerolの等式についてはドリフト付きBrown運動の場合への拡張が従来知られており,とくにドリフトの値が1のときは,独立な対称Bernoulli確率変数を用いて述べられる.この場合の等式に対しても,上記と同様に確率過程間の同分布性への拡張を得た.これらの結果をまとめた論文を投稿に向けて準備し,“Extensions of Bougerol's identity in law and the associated anticipative path transformations”とのタイトルの下,まずはプレプリントサーバーarXiv.org上でその原稿を公開している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」の項目に記載した2020年度の研究成果と,当該科学研究費補助金の主な研究課題であるSkorokhod(スコロホッド)の埋め込み問題とは,Brown運動を共通の土台にもつものの,直接的な結びつきの強いものではなく,研究の方向性を本来のものとやや異にする点は否めない.そのため,「やや遅れている」との自己評価となった.なお,上述の研究成果に登場する経路変換の族はある種の半群性をもち,時間逆転の作用とも相性がよいなど興味深い性質を備えており,そのような対象と従来のBougerolの等式との関係が明らかになったことは,指数Brown汎関数の研究において意義あるものであり,今後の研究の深化にもつながるものと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
下記「10.研究発表」の〔雑誌論文〕の項目中,第1件目の研究成果を受けて行った2020年度の研究は,Bougerolの等式についてより深い理解を得ることを動機とするものである.この等式の成立は従来,指数汎関数を定める時間積分の終端時刻がランダムでない,つまり決定論的な場合に知られていた.上記の論文の主眼の一つに,等式の成立を終端時刻がランダムな場合にまで拡張したことが挙げられる.より正確に述べると,Brown運動のある汎関数として定まる拡散過程の任意の停止時刻に対して成立が示される.この拡張については,その導出過程で援用した既存の結果(Matsumoto--Yor,2000年)に鑑みれば,「Brown運動の汎関数で与えられる拡散過程の到達時刻をもとのBrown運動に代入することにより,ある特定の確率分布を実現する」との,Skorokhodの埋め込み問題に対する新たな解の構成可能性を示唆するものと考えられる.2020年度の研究で得た結果のいくつかも上述の拡張が可能なものであり,当該研究分野の最新の研究結果も取り込みつつ,2020年度の研究によって得た知見を活かして引き続き研究課題に取り組む.
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Causes of Carryover |
参加を予定していた研究集会がオンライン開催または中止になるなどにより,旅費に充てる計画であった額が未使用のまま残ることとなった.また,研究形態として在宅での研究活動も取り入れることとなり,予定していたパソコンやプリンタの刷新を含む研究室環境の整備を控えることとなった.2021年度の使用に際しては,これら研究室環境の整備に努めるとともに,研究打ち合わせおよび研究成果発表旅費に効率的に配分する計画である.また,引き続き解析学・確率論関連図書の購入を通じて,最新の理論の習得および情報収集を行う.
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