2017 Fiscal Year Research-status Report
連続型ダイナミクスと離散型ダイナミクスの本質的相違性及び類似性の解明
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17K05327
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
杉江 実郎 島根大学, 総合理工学研究科, 教授 (40196720)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 関数微分方程式論 / 安定性理論 / 造血幹細胞モデル / 食物連鎖モデル / 振動性理論 / 差分方程式 / 国際研究者交流 / 中華人民共和国 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度に国際学術誌に掲載済みまたは掲載決定済みになった研究内容は以下の通りである。 1.安定性理論 減数項をもつ振動子の平衡点が大域的漸近安定や一様大域的漸近安定になるための種々の条件が報告されている。それらに包含関係があることを明確にした。これにより、一見バラバラに思えていたそれらの条件に綺麗な関係があることを示した。また、それぞれの条件に長所や短所があることも報告した(本研究計画のタイムテーブルの1-1に対応)。 2.振動性理論 2つの変数係数をもつ半分線形微分方程式を考え、その係数のペアによって描かれるパラメータ曲線に着目することによって、すべての非自明解が振動するための条件を与えた。この結果は、先行研究とは趣きを異にしており、パラメータ曲線は描くだけで、条件が成り立つか否かを容易に判断できるという利点がある(タイムテーブルの2-1に対応)。また、有限フーリエ級数で表現される係数をもつマシュー方程式のすべての解が振動しないことを保証する条件を与えた。マシュー方程式はパラメトリック励振を引き起こすモデルとして有名であり、広範囲な分野で研究されているため、この研究成果は他の研究分野にも影響を与え得る(タイムテーブルの2-2に対応)。さらに、各成分が数列である2×2行列によって表現されている差分方程式系の振動・非振動に関する研究にも成果を挙げた。定数行列である場合、その固有値がすべて正の実数であるか否かがすべての非自明解が振動しないための必要十分条件であることは良く知られている。得られた結果はこの事実を改良したものである(タイムテーブルの2-3に対応)。 3.生態系モデル解析 食物連鎖網の根底を形成する植物プランクトン‐動物プランクトン‐小魚の個体密度のダイナミックスを解析し、内部平衡点の大域的漸近安定性及び同程度漸近安定性について研究した(タイムテーブルの3-1に対応)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度にあたる平成29年度は順調に研究が進み、研究成果は5編の国際学術誌に掲載された。SCImago Journal Rankings 調べで、3編がQ1誌で1編がQ2誌である。これら以外に、5編の論文を国際誌に投稿・審査中である。これらから本計画は極めて良好な進捗状況にあると言える。また、学会発表の欄にも挙げたように、平成29年度に得られた成果報告は国内外の招待講演11件を含む計23件に達している。招待講演や一般講演を聴講してもらった研究者と今後の共同研究の可能性についても検討できたことは大きな収穫であった。今後の本研究の進展に寄与するものと思われる。さらに、5編の論文が掲載されたエルゼビア社やシュプリンガー社のホームページや学術論文データベースによると、それぞれの論文のダウンロード数は順調な伸びを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、交付申請書の「研究計画・方法」に記載したタイムテーブルに沿って、本研究を進めたい。平成30年度は主に3つの課題解決を図る予定である。 1.インパルス効果を有する微分方程式の平衡点の安定性やすべての非自明解の振動性に関する研究を行う(本研究計画のタイムテーブルの1-3に対応)。自然現象や生命現象などは外部からの瞬間的な力(衝撃や圧力など)によって、状況が一変する場合がある。その未来予想を可能にするために、モデルとしての微分方程式にインパスシブ効果を組み入れる。先行研究は少ないようであるが、この研究を進めたい。 2.「研究実績の概要」の欄にも記したように、前年度にパラメトリック励振を引き起こすモデルとして有名なマシュー方程式の振動問題を扱った。マシュー方程式の係数は1つの三角関数で表されているが、工学分野での現象を記述するモデルとしては、係数が複数個の三角関数を表されている場合が多い。係数が2つの三角関数の和である場合、それらの三角関数の角速度の比率が有理数であれば係数は周期関数であるが、比率が無理数であれば係数は準周期関数となり解析が一段と難しくなる。昨年度の研究成果を踏まえ、本年度はこの問題に取り組む(タイムテーブルの2-1に対応)。 3.血球の増加と減少を記述する造血幹細胞モデルを考察し、周期解の存在について研究する(タイムテーブルの3-3に対応)。ここで考察するモデルは、Mackey and Glass(Science、1977)によって提案された単峰性の生産関数をもつ遅延微分方程式の離散化であり、その係数と時間遅れは周期的離散関数と表されている。数学的解析には、一致写像度論における継続定理を用いる予定である。また、臨床データに基づいて、得られた結果をどのように適用するかについて考察する。
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Causes of Carryover |
平成30年度に、研究代表者及び連携研究者が参加したい国際研究集会が複数、欧州で開催されることが昨年度後半に決まった。昨年度が連携研究者の一人が受けていた科研費の最終年度にあたり、昨年秋に新規課題を申請したが、採択されるかどうか不明であった。また、研究代表者の教育貢献が認められ、島根大学から「優良教育実践表彰」を授与され、その副賞として若干の研究費が支給された。これらの状況の変化から、予定していた物品はその経費によって賄い、今年度用の海外渡航費として、昨年度の経費を少々残した。残念ながら連携研究者の申請は採択されなかったので、連携研究者の渡航費の補助や海外研究協力者の日本への招聘のための経費などに、その繰越金を利用する。また、本研究計画を円滑に遂行するために、平成30度分の助成金については当初の計画通りに適切に予算執行する。
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Research Products
(31 results)