2018 Fiscal Year Research-status Report
連続型ダイナミクスと離散型ダイナミクスの本質的相違性及び類似性の解明
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17K05327
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
杉江 実郎 島根大学, 学術研究院理工学系, 教授 (40196720)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 関数微分方程式論 / 安定性理論 / 造血幹細胞モデル / 食物連鎖モデル / 振動性理論 / 差分方程式 / 国際研究者交流 / 中華人民共和国 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度に国際学術誌に掲載済みまたは掲載決定済みになった研究内容は以下の通りである。 1.安定性理論 植物プランクトン・動物プランクトン・魚類の3種からなる生態系について考察した。モデルには動物プランクトンが魚以外にも収穫されることや、植物プランクトン以外の微生物からもエネルギーを摂取することをモデルに組み込んだ。さらに、プランクトンの活性に影響を及ぼす気温や日照時間などの季節的要因も想定した。ただし、環境は必ずしも規則正しく周期的に変化を繰り返しているとは限らないことも考慮した。このような実状に合った要因を加えたため、研究対象としたモデルは、従来の殆どの生態系モデルとは異なるものとなった。このモデルの内部平衡点が大域的漸近安定や同程度漸近安定であることを保証する十分条件を得た。これは当初の研究計画にはなかった発展的成果である(タイムテーブルの3-1にも対応)。 2.振動性理論 パラメトリック励起現象を記述する数学モデルとして良く知られているマシュー方程式が2つの周波数をもち、その比が必ずしも有理数ではない場合を考察した。周波数比が無理数の場合はフロッケ理論のような基本的な知識は役に立たなくなる。その意味では、本研究は画期的であると言える。すべての解が非振動的であることを保証するためのパラメータと周波数に関する条件を得た。この条件の利点は、それを手計算でも容易にチェックできることである(タイムテーブルの2-1に対応)。 3.生態系モデル解析 血球の増加と減少を記述する離散的造血モデルを考察し、正のω周期解が存在することを保証する条件を得た。この結果を得るために用いた一致写像度論の継続定理は良く知られているが、離散的造血モデルにも適用できることを示したことは斬新であると言える。また、単に存在性だけではなく、正のω周期解の存在範囲も明確にした(タイムテーブルの3-3に対応)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
二年目にあたる平成30年度も研究が順調に進み、多くの研究成果を得ることができた。それらを5編の論文としてまとめ、それぞれが国際学術誌に掲載された。SCImago Journal Rankings 調べでは、掲載された国際学術誌のうち、4つがQ1誌で1つがQ2誌であった。これら以外に、平成30年4月時点で4編の論文がQ1誌に掲載されている。また、4編の論文が国際誌に投稿・審査中である。さらに、今後の国外研究者との共同研究も進みつつある。このような状況から判断して、本計画は極めて良好な進捗状況にあると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、交付申請書の「研究計画・方法」に記載したタイムテーブルに沿って、本研究を進めたい。平成31年度は主に2つの課題解決を図る予定である。 1.平成30年度から研究している離散的造血モデルを対象として、正のω周期解の一意性と大域的漸近安定性について考究したい。平成30年度に、一致写像度論の継続定理を用いて、正のω周期解の存在性だけではなく、その存在範囲を明確にできたことを足掛かりにすれば、目的は十分に達成可能であると考えている(タイムテーブルの3-3に対応)。 2.インパルシブ微分方程式の振動理論に関しては、既に平成30年度から研究を開始しており(タイムテーブルの1-3に対応)、その研究成果は国際学術誌(Q1)に掲載されている。この成果を基盤として、さらなる進展を目指したい。本研究では、復元力項のみをもつ運動方程式で記述される質点の移動速度が何等かの影響によって瞬間的に急激に変化する現象を表わすモデルをインパルシブ微分方程式と言い、この現象をインパルス効果と呼んでいる。すべての非自明解が振動しない微分方程式にインパルシブ効果を加えることによって、解の振動性がどのように変化するかについて議論する。このような現象の一例として、剛体の衝突現象が挙げられる。一般に、復元力項が小さいとき、インパルシブ効果のない方程式のすべての非自明解は振動しないことが知られている。そのような方程式にインパルシブ効果を加え、すべての非自明解は振動するようになるためのインパルス量を求めたい。インパルス量の総和が大きいと、方程式のすべての非自明解が非振動から振動に変化することは容易に想像される。本研究では、そのような変化が起こるためのインパルス量の総和の下限についても解明したい。
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Causes of Carryover |
平成30年9月末に、本研究で得られた成果の一部を中国の黒龍江省にある東北林業大学理学院に赴き発表した。理学院の数学系主任は本研究課題と関係がある研究をしており、今後の共同研究についても相談した。その結果、数学系主任の研究室に在籍している大学院生を平成31年度から研究代表者が指導することになった。現在、メールの遣り取りで少々指導しているが、本研究課題を進めるためにも、ある程度の研究遂行の目途が立てば、数学系主任やその大学院生を島根大学に招聘する計画を立てた。彼らの渡航費・滞在費の一部を補助するため、平成30年度の経費を少々残し、その繰越金を利用する予定である。尚、本研究計画を円滑に遂行するために、本研究課題の最終年度にあたる平成31度分の助成金については、当初の計画通りに適切に予算執行する。
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Research Products
(24 results)