2018 Fiscal Year Research-status Report
Tensor network approach to elementary particle physics
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17K05411
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
武田 真滋 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (60577881)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | テンソルネットワーク / 格子上の場の理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は2つのテーマにおいて進展があった。1つ目は、計算コスト削減アルゴリズムの開発とその数値的な検証である。そこでは「射影打ち切り法」と呼ばれる情報圧縮の手法を用いて、テンソルネットワーク法のボトルネックであるテンソル縮約時の計算コストを削減するアルゴリズムを開発した。また、その有用性を測るテスト計算として同法を2次元イジングモデルに適応し、厳密解と比較することにより計算の効率性を綿密に検証した。この研究は連携研究者である中村宜文氏と指導学生の3人で行い、その成果をPhysical review B誌に投稿し、その後掲載にまで至っている。そして、国内での研究会や学会、さらには国際的な研究会においても発表を行っている。現在、この手法を高次元化するための予備研究を行っているところである。 2つ目の成果は、2次元スカラー理論の臨界点を決定したことである。このテーマに関してはすでにモンテカルロ法による先行研究が複数報告されているが、連続極限の取り方に不明瞭な点が残されていた。そこで、テンソルネットワーク法を用いてその不定性を除去するのがこの研究の目的である。この研究には国内の複数の共同研究者が関わっている。この研究では我々が以前に開発したガウス求積法を用いたテンソルの構成法の検証も行っており、その結果、相互作用がある場合でも同法の有用性を確認することができた。最終的に、既存のモンテカルロ法との結果と矛盾しない結果が得られた。この研究では最もシンプルなテンソルネットワークアルゴリズムを使用しており、それにもかかわらずモンテカルロ法と同程度の誤差を示していることから、さらに精密化できる余地が残されていることが分かった。今後はより高度なテンソルネットワークアルゴリズムを用いてモンテカルロ法の精度を超えることが目標となる。この研究もJHEP誌に投稿・掲載に至っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は射影打ち切り法の検証を行い、その成果を論文としてまとめることができた。そこでは2次元モデルでの検証ではあるが、今後の高次元化への足がかりとなる。このように高次元化に向けて順調に研究は進展していると言える。現在は、3次元イジングモデルに対して、同手法を適応する試験的な研究を行っている。 次に、2次元スカラー理論の臨界点決定の研究については、テンソルネットワーク法がモンテカルロ法と並ぶ非摂動的計算手法としての地位を確立するための一つの証拠になったと考えている。このような比較により、各手法の長所短所が明らかとなり、今後さらに複雑なモデルを解析する際にどちらの手法を用いるかなどの重要な判断材料になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方向性としては、まず、高次元化の研究をこのまま推進していくことが挙げられる。これについては、射影打ち切り法の高次元化が第一目標である。これには、高次テンソルくりこみ群アルゴリズムと射影打ち切り法の融合が必要であるが、現在、試験的な計算を行っているところである。また、モンテカルロ法と組み合わせた縮約の乱択化法の開発も視野に入れている。これには共同研究者との連携が必須になると予想される。さらに高次元系では、アルゴリズムの改良だけでは計算量の増加に対処しきれない可能性もある。もし、その場合は各種研究機関が行っている大規模計算資源の募集に申請する予定である。このような計算資源獲得により、研究の推進がスムーズに行えると考えている。
もう一つの方向性としては、テンソルネットワーク法の強みの一つに符号問題のある系にも適応できる点が挙げられる。そのような例として、現在、ミンコフスキー空間における場の理論モデルにテンソルネットワーク法を適応する試みを行っているところである。この手法が完成すれば、スペクトル関数や輸送係数など、これまで手が出せなかったような物理量を直接的に、非摂動的に且つ精密に計算できる可能性が広がる。ただし、ミンコフスキー空間の場の理論の非摂動計算はまさに未知の領域であり、連携研究者以外の協力も得ながら研究を進めていく予定である。具体的には、最も単純な場の理論モデルである1+1次元実スカラー理論の研究を始める予定である。このモデルでは、テンソルネットワーク法以外の手法による先行研究がいくつか報告されているためベンチマークテストとして最適であると考えている。このように多方面の研究者の協力を得ながら研究を推進する予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)本年度に生じた残額は有意義な使用を行うには半端な金額となったため、次年度の助成金と合わせて使用することにより、より有効な使用計画が可能となると判断した。 (使用計画)次年度に請求している助成金と合わせて、研究成果発表のための旅費や、学外から招聘する講師によるセミナー等を通じた専門知識の提供に対する謝金として使用する予定である。これらを通して研究が最も効率的に推進できるように、研究費の使用については最大限の配慮を行う。
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