2019 Fiscal Year Research-status Report
Nonperturbative studies of superstring theory by numerical simulations of matrix models
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17K05425
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
東 武大 摂南大学, 理工学部, 准教授 (10516785)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 素粒子論 / 超弦理論 / 行列模型 / 符号問題 / 複素ランジュバン法 |
Outline of Annual Research Achievements |
超弦理論は10次元時空でのみ整合性を持って定義され、私達の住んでいる空間3次元+時間1次元の4次元時空は残りの6次元がコンパクト化されたものだと考えられている。1996年に提唱されたIKKT行列模型は超弦理論の摂動論に依らない定式化の有力な候補である。IKKT行列模型ではボゾンのエルミート行列の固有値が時空として解釈され、どのような時空が実現するかが模型の力学的性質によって決定される。
時間方向をウィック回転をして虚時間に読み替えたユークリッド型のIKKT行列模型については、フェルミオンを積分して得られるパフィアンが複素数であるため、数値的に扱う上で符号問題に直面する。近年、符号問題を持つ系を解析する手段である複素ランジュバン法が経路積分と等価な正しい結論を与えるための条件に関して、理解が急速に発展した。2019年度は10次元のIKKT行列模型に対して複素ランジュバン法を適用してSO(10)回転対称性のSO(3)への破れを示し、arXiv:2002.07410で公表した(2019年3月末現在査読中)。ユークリッド型のIKKT行列模型の数値計算は難しい問題であり過去の因子化法などの研究と合わせると15年以上取り組んできた問題であるが、今回のarXiv:2002.07410の論文はその集大成ともいえる。
また、時間方向をウィック回転しないローレンツ型のIKKT行列模型はフェルミオンのパフィアンから来る符号問題はないがe^{iS}(Sは作用)から来る符号問題がある。e^{iS}の符号問題を差し挟まない近似を用いた過去の先行研究では3次元空間の膨張は見られるものの中が空洞な球殻上の時空構造であった。2019年度はe^{iS}の符号問題の複素ランジュバン法による取扱いに着手することが出来、このテーマについては2020年度も研究継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度はユークリッド時空におけるIKKT行列模型の数値シミュレーションという難しい問題に対して、複素ランジュバン法による解析によって一定の結果を与え、これまでの長い研究の集大成ともいえる論文を投稿出来た。 また、ローレンツ型のIKKT行列模型についても複素ランジュバン法でe^{iS}(Sは作用)から来る符号問題を扱う糸口を見出すことに成功した。 上記の研究成果について、2019年度は論文arXiv:2002.07410を投稿するとともに国際会議で1件、国内学会で2件の発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は昨年度に引き続き、ローレンツ型IKKT行列模型の符号問題を用いた解析を推進する予定である。先行研究(西村、土屋、arXiv:1904.05919)ではフェルミオンを含まない簡単化した模型に対してe^{iS}の符号問題を取り扱うことで膨張する3次元空間が、中の空洞な球殻とは異なる構造であることが見い出された。目下この研究で更に調べるべきことは、連続極限の取り方やフェルミオンを入れた数値計算など多岐にわたる。これ等の方向性を追究するうえでは行列のサイズを大きくする大規模な数値計算が要求され、富岳やOakbridge等のスーパーコンピューターの援用が必要だと考えられる。
また、有限温度のゲージ理論でも、符号問題を伴う化学ポテンシャルや、超対称性を持った量子力学で符号問題を伴う場合を解析することは興味深い問題である。
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