2017 Fiscal Year Research-status Report
高次輻射補正に現れる発散を伴うマルチループのファインマン積分の完全数値的な計算法
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17K05428
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
湯浅 富久子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 教授 (00203943)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 潔 工学院大学, 教育推進機構(公私立大学の部局等), 教授 (50152707)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ファインマン積分 / マルチループ / 紫外発散 / 次元正則化 / 多次元数値積分 / 外挿法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の研究対象であるファインマン・パラメータ積分(以下、ファインマン積分)は、ループの次数、外線の数、外線の運動量、内線の数、内線の質量によっては、被積分関数が特異性をもち、積分は困難になる。この特異性は、1)紫外発散、2)赤外発散、3)被積分関数の分母がゼロになることによる特異性、の3つに大別される。本研究では、高次輻射補正に現れるマルチループのファインマン積分が有するこれらの特異性を数値的に取り扱う計算法を開発している。質量のない粒子が重要な役割を果たすQCD相互作用プロセスでは、解析的にマルチループ積分を取り扱う方法が開発されているが、様々な質量をもつ粒子が関与する電弱相互作用プロセスでの高次輻射補正計算を、解析的かつ一般的に行う方法はない。我々の方法は、多次元数値積分と外挿法を組み合わせたもので、完全に数値的である。このため、原理的には、質量の大きさによらずにマルチループのファインマン積分を計算できる。この方法を統一的で汎用的な計算法として確立することが研究の目的であり、様々な角度から検証を進めている。
平成29年度は、特に1)の特異性に着目し、我々の開発する数値計算手法がループ数と内線の質量の大きさによらずに有効であることの検証を進めた。2ループトポロジーのファインマン積分については、電弱相互作用でのHiggs粒子の2点関数の計算を事例に、検証を行った。このプロセスには、トポロジーの型が13種類あり、総計3082個のファインマンダイアグラムが現れるが、このうち困難性の高い5種類のトポロジーについて検証が終了した。
2ループ以上のファインマン積分については、スカラー積分に限定して3ループの2点関数、3点関数を事例に、外線の運動量の大きさおよび内線の粒子の質量の大きさにかかわらず、我々の手法が有効であることを検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、事前の調査と準備が有効に働き、初年度の研究は概ね順調に進展した。また、計算事例として選択したHiggs粒子の電弱相互作用2ループ2点関数の高次輻射補正では、ループの内線数が高々5であるため、多次元数値積分における次元数がそう高くならない。これにより、多次元数値積分法を一つにかぎらず、複数の積分法を用いるなど、多角度から我々の計算法のアルゴリズムの検証を実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、平成29年度に着手したHiggs粒子の電弱相互作用2ループ2点関数の高次輻射補正の計算を引き続き行う。すでに13種のトポロジーの型うち5種の検証が終了しているので、本年度は残りの8種のうち4種について検証を進める計画である。前年度はトップクォーク、ボトムクォークなど取り扱うクォークの種類を限定していたが、本年度には、軽いクォークも含めることを計画している。この場合、紫外発散による特異性だけでなく「被積分関数の分母がゼロになることによる特異性」も現れてくる。「被積分関数の分母がゼロになることによる特異性」については、本研究の開始前にスカラー積分を対象として検証を数多く行ってきているので、我々の手法が有効であると期待している。しかしながら、テンソル積分に対して「被積分関数の分母がゼロになることによる特異性」が現れる場合も良い精度で結果を得られるかどうか検証することは初めての試みであり、可能な限り理論的考察を並行して行う計画である。理論的考察は、研究分担者を中心に進める。
2ループ以上のファインマン積分については、今後も対象をスカラー積分に限定して、より次数の高い4ループ積分で、内線が質量をもたないファインマンダイアグラムを取り扱い、我々の方法の適用範囲を拡大していく計画である。4ループ積分は2点関数であっても10次元積分まで現れるため、数値積分の困難性が大変高い。領域の分割など積分法に工夫を加えてこの困難性を回避していく計画である。計算時間も増大することが予想されるため、高速化のためのプログラム開発も行う。
平成30年度は、我々の計算法を高エネルギー物理学における自動計算システムに組みこむ作業も開始する。自動計算システムは、大規模システムであるため、どう組み込むのかについてシステム設計が必要である。設計は、自動計算システムに経験の深い研究分担者を中心に進める。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、国際会議へ出席するためにスイスと米国に海外出張をしたが、いずれも十分余裕をもって手配したため、航空運賃が予定していた金額を下回った。また、平成29年度には、物品の購入の必要が生じなかった。これにより、差額148,087円が次年度使用額となった。平成30年度は、本研究に関連する分野の国内学会の開催地が関東圏でなく遠方地であるため、国内旅費が増加する傾向となっている。生じた差額は、次年度には主として国内旅費にあてる計画である。
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Research Products
(8 results)