2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K05433
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 則孝 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任准教授 (30419254)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 原子核構造理論 / 殻模型計算 / ベイズ統計 / 有効相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、原子核殻模型にベイズ統計を導入し、原子核構造理論の不定性を評価することで、理論模型の限界や予言の精度を定量的に議論することを可能とすることを目的としている。
原子核構造計算において、原子核殻模型は加速器実験によって得られる低エネルギー励起スペクトルをよく記述する最も有力な手法である。模型を規定するパラメータは、微視的に核力から出発した有効相互作用理論を用いて求められるが、このパラメータは多くの場合実験値を再現する程高精度ではないため、理論計算結果の予言能力を向上させるためにパラメータの現象論的補正が必要となる。ここにパラメータ由来の不定性が生じるが、これまでこの不定性を評価することができなかった。本研究では、原子核殻模型にベイズ統計を導入し、これらの不定性を評価する新たな理論枠組みを構築する。これにより、未計測の実験値が実際に計測された場合のインパクトを評価することを可能とし、将来の実験計画の指針を立てるような新たな手段の確立を目指す。 並行して、これらに必要な殻模型計算の高速化や有効相互作用の構築をすすめる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、マルコフ鎖モンテカルロによって、パラメータの不定性を取り込んだ相互作用の集団を構築する予定であったが、最も単純なMetropolice-Hasting法では、マルコフ鎖モンテカルロが定常分布に収束する速度が非常に遅く問題になることが明らかになった。そのため、本研究ではラプラス近似を導入し、安定した分布を得ることに成功した。 p殻核(質量数5から16までの原子核)の原子核殻模型計算を例に取り、ベイズ統計における事前分布を一様分布として事後分布として、一定の不定性を許容し実験値を再現するようなハミルトニアンのパラメータセットの統計的な集団を、ラプラス近似を用いて生成した。このハミルトニアン各々に対し、殻模型計算を実行することによって、有効相互作用に含まれるパラメータに由来する不定性を議論することが可能となる。実際に束縛エネルギー、励起エネルギースペクトラムにおけるPhys. Rev. C 98, 061301 (2018)として原著論文を出版した。 先行研究として現象論的フィットのみから作られたCohen-Kurath(CKPOT)相互作用による計算結果と、第一原理計算から求められれたIn-medium Similarlity Renormalization Group(IM-SRG)相互作用の結果を比較検討を進めた。CKPOT相互作用においては、導入されていなかったパラメータの質量依存性が有用であることを示した。また、IM-SRGは系統的な実験値とのずれを示しており、改善の余地があることを示した。
|
Strategy for Future Research Activity |
p殻核では、パラメータの不定性を記述するハミルトニアンを50,000セット用意して、得られた物理量の不定性を議論することができた。しかしながら、同じ物理量を50,000回殻模型計算を実行することになり、そのままより重い原子核の質量領域に適用することは計算量の観点から不可能である。この問題を克服するため、線形近似による不定性評価方法を導入、検討中である。p殻核では有望な結果を示しており、今後sd殻核以降に適用していく。
|
Causes of Carryover |
スパコンの計算機資源の購入に使用する予定で確保していた予算を用いる必要がなくなったため、次年度に繰り越した。成果発表や共同研究のための出張旅費に宛てる予定である。
|
Research Products
(6 results)