2017 Fiscal Year Research-status Report
基礎論・現象論・高エネルギー原子核衝突実験理解から探る超高温QCD物質の研究
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17K05438
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野中 千穂 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 准教授 (10432238)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クォーク・グルーオン プラズマ / 高エネルギー原子核衝突実験 / 流体模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
RHICとLHCで遂行されている高エネルギー原子核衝突実験の包括的で定量的な解析が可能な現象論的模型を完成させた。この模型は現在のところ世界最先端な模型と言える。この模型を用いてまずLHCにおける鉛ー鉛衝突実験の粒子分布や粒子の集団運動の解析を行いクォーク・グルーオンプラズマ(QGP)の輸送係数の温度依存性について議論を行った。ここではずり粘性だけでなく、体積粘性の温度依存性も同時に取り入れ、粒子分布、粒子の集団運動の実験結果との詳細な比較・検討からQGP物性の解明に取り組んだ。その結果、QGPの輸送係数の温度依存性の解明には一つの実験結果だけでなく、様々の実験データを同時に解析することが重要であること、特に粒子の集団運動のラピディティ依存性がQGPの輸送係数に敏感であり、温度依存性を明らかにできることがわかった。この結果を論文にまとめ雑誌に投稿中である。さらにLHCにおける2粒子相関、光子と行った電磁プローブなどの様々の実験結果解析を開始した。またRHICにおける実験結果の解析も行い、LHC実験と合わせた包括的な解析の遂行を予定している。RHICのBeam Energy Scan 実験を念頭におき、低エネルギー領域への解析への模型の拡張も行った。低エネルギー原子核衝突実験では高エネルギー原子核衝突実験では無視できた化学ポテンシャルやバリオン数拡散係数といった様々な要素を取り入れる必要がある。その第一歩というべき模型を完成させ、現在論文を執筆中である。流体と粒子法のハイブリッド模型構築を目指し、まず粒子法(C-PIC)のみでの模型開発に取り組んだ。流体と相補的とも言える模型を用いて流体の初期条件や流体化のメカニズム解明への基礎を作ることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度では実験解析のための現実的な現象論的模型の整備、その模型を使った実験解析、そして粒子法(C-PIC)のコード開発を目標にしていたが、いずれも完了させることができた。特に現象論的模型は初期条件、流体コード、流体から粒子へのプロセス、粒子間の相互作用と数ステップからなる模型となっている。その複雑さのため、高エネルギー原子核衝突実験の定量的解析の研究に新たに参入するのが難しい状況になっている。その中、我々は世界をリードしている現象論的模型を1年という短期間で完成することに成功した。さらに完成した模型を用いて実際の実験結果を定量的に説明し、QGPの物性を明らかにすることができた。RHICとLHCでは理論からの理解が待たれている実験結果が数多く残されているので、この現象論的模型が開発できたことによって我々はQGP物性解明研究において世界的に見ても大きなアドバンテージを得ることができたと言える。さらに粒子の集団運動のより詳細な解析、2粒子相関、光子といった電磁プローブ、RHICの実験解析といった研究がすでに進行中である。同時に低エネルギー原子核衝突実験領域についての模型の拡張を行ったため、広い衝突エネルギーにおけるRHIC・LHCの包括的な解析によるQGP物性解明が今まさに現実化しつつある。 一方、C-PIC でのコード開発もほぼ終了したので、今後は実際に高エネルギー原子核衝突のシミュレーションを行い、流体化や、陽子ー陽子衝突といった小さい系でも観察されている流体膨張のメカニズムの解明に取り組む予定である。さらにこの模型を元に粒子法のハイブリッドな模型開発への基礎作りをしていくことができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は完成した現象論的模型を用いて様々な実験解析に取り組んでいく予定である。粒子の集団運動の粒子種ごとの詳細な解析、2粒子相関といったQGPのバルクな性質に関連したものは、統計をあげていくことによって容易に取り組むことができると考えられる。小さな系についても初期条件を変更するだけであるので、素直な延長として研究が可能と予想される。鉛ー鉛衝突、陽子ー鉛衝突実験との比較によって流体膨張の起源を明らかにしていく。さらに電磁プローブ、重いフレーバーにも取り組んでいく。この場合は流体は媒質として取り扱い、光子やレプトン対の生成率などについての検討が新たに必要になってくる。例えば原子核衝突実験における光子生成の起源は様々なものが考えられるため、衝突後の時空発展の様々な過程を記述できる各我々の現象論的模型を用いれば光子生成を通してQGPの物性を明らかにできることが期待できる。LHCだけでなくRHICのトップエネルギーの解析を行い、RHICとLHC2つのエネルギー領域の解析からQGP物性を詳細に明らかにする。さらにRHICでのBeam Energy Scan 実験の解析を行い、QCD臨界点の存在について検討も行う。低エネルギー衝突実験の記述にふさわしいように模型の改善も適宜進めていく。 並行して粒子法、C-PIC の解析を本格的に行う。実際にこの手法の元で原子核衝突を考慮し、そのあとのカラー電磁場などの時空発展の解析から、現在は現象論的に与えている流体膨張の初期条件への足がかりを得ることを目標にする。さらに流体と粒子法のハイブリッド模型の検討も開始する。以上のように概ね計画通りの遂行が期待できると考えている。
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Causes of Carryover |
数値計算用の計算機の購入を予定していたが、より良い条件での購入を考え、次年度にすることにした。
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Research Products
(7 results)