2017 Fiscal Year Research-status Report
Exploration of Black Hole Spacetime and Origin of Astrophysical Jets
Project/Area Number |
17K05439
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
高橋 真聡 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242895)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブラックホール / 一般相対論 / 磁気流体力学 / 高エネルギー天体物理学 / ブラックホール磁気圏 / 宇宙ジェット / ガンマ線バースト現象 / ブラックホール影 |
Outline of Annual Research Achievements |
天体ブラックホール近傍のプラズマ環境に関して、一般相対論的プラズマ物理学・磁気流体力学を構築しつつ、 “ブラックホール磁気圏” の性質を研究している。今までに、磁気圏磁場に沿っての磁気流体流について、流体加速やブラックホール回転エネルギー引き抜きについての成果を上げてきた。現在は、これまでの成果を実際の天体現象(観測データ)に照らし合わせ、観測的に検証するための試みを進めている。観測データと照らし合わせるための理論モデル構築のためには、磁気圏の大局的構造の理解が必要となる。
磁気圏磁場構造の決まり方の理解のためには磁気関数についての非線形二階の偏微分方程式を扱うことになる。その方程式は臨界点を含む構造の方程式であり、一般にその解析は解析的にも数値的にも難しい。本研究では、モンタナ州立大学天体物理グループとの共同研究により、定常軸対象のブラックホール磁気圏の問題に数値解析的に取り組んだ。モデルの構築に際しては、磁場が卓越した状況を設定し、ブラックホールからの回転エネルギーの抽出機構について、特に磁気圏磁場の形状および回転の効果による依存性について詳細に調べた。
このブラックホール磁気圏の数値計算においては、磁気圏の回転角速度が磁気圏全体で一定であるとして解析した。これにより、磁気圏回転の効果が磁場形状にどの様に作用するかを議論できる。その結果、磁気圏の回転がブラックホールの回転に比べて遅い場合には、磁力線形状は磁気圏の回転軸に沿う方向に湾曲することが示された。このことは宇宙ジェット現象を理解する上で都合の良い結果である。一方で、磁気圏の回転が速い場合には、磁気圏回転軸から離れていく方向に湾曲する結果となった。また、ブラックホールから引き抜かれた回転エネルギーは、放射状形状の場合に大きな値となることを示した。この結果は Physical Review D 誌にて研究発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ブラックホール磁気圏の磁場構造の数値計算については、第一段階として磁気圏磁場の回転角速度が磁気圏全体で一定であるとして解析済みである。今年度後半は、第二段階として(より現実的な状況設定として)、磁気圏の回転角速度に分布がある場合、すなわち回転軸からの角度に応じて回転の程度が変化する場合について研究している。我々は、このような角度依存性を導入することで様々な磁場形状の磁気圏を構築できる事を確認した。特に、我々が「Jet-Disk構造」と呼ぶ磁気圏構造を見出せたことは、宇宙ジェットモデルを提案する立場としては興味深い。
実際のブラックホール天体において、どの様な磁気圏磁場が実現されているかについては今後の観測データとの照らし合わせ作業が必要であるものの、本研究では宇宙ジェット形成の観点からブラックホール回転エネルギーの発生効率、および輸送方向(電磁気的エネルギーとしして輸送される)について理解が深まりつつある。この結果は物理系学術誌に投稿するも、解析手法等(境界条件の取り扱い等)について査読者から指摘があり、現時点では改定作業を進めている。
宇宙ジェット研究において、上記のブラックホール磁気圏研究は宇宙ジェットの付け根領域の解明に繋がる。その一方で、ブラックホール近傍から放出されたプラズマが、遥か遠方にまで伸びる宇宙ジェットの構造の中で、どのように加速されほぼ光速に至るかについて同様の枠組みで理解したい。特殊相対論的磁気プラズマの磁場構造とプラズマ加速については Tomimatsu & Takahashi (2003) にて考察したが(当時は)天体現象への適用を行わなかった。近年、観測技術の向上により M87宇宙ジェットの付け根領域の観測が可能となり、新たな興味深いデータが収集できるようになってきた。これを受け、理論モデルのパラメータ決定のための擦り合わせの作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
ブラックホール磁気圏の研究については、従来の磁気圏モデルに「プラズマ慣性」の寄与を取り入れ、プラズマ運動による磁力線形状への修正について考察する。このプラズマの効果を取り入れることで、プラズマ流体と電磁場との相互作用が記述できるようになり、電磁場エネルギーが流体の運動エネルギーに変換される条件(これが宇宙ジェットの加速機構と考える)を議論することができる。その折、磁場形状も同時に解くため、自己矛盾のないジェットの付け根領域の理論モデルを構築できることになる。これらの解析も数値計算による解析手法で実行するが、(我々により定式化済みの)定常軸対称解析解との比較が容易であるため、どの物理パラメータが本質的になっていて、どのような機構で構造が決まるのかについて、効率的に理解しやすいというメリットがある。特に、ブラックホール重力赤方偏移の効果やブラックホール自転による時空の引きずりの効果が、どのように磁気圏構造形成やプラズマ加速に関わるか明らかにする。
観測されている宇宙ジェットのデータを我々の理論モデルとマッチングするには、まだいくつかの課題が残されている。我々の理論モデルは現象を説明するための第ゼロ近似的なものであり、現象の本質を理解するための基本的な性質を明確に記述できる。ただし、このモデルが予言する性質をそのまま観測できるとは限らない。実際の観測量には(輻射発生機構に依存して)様々で複雑な物理現象が関与するため、観測される物理量をモデルパラメータにフィットするためには、いくつかのデータ解析と翻訳の作業を経なけらばならない。電波VLBI以外の観測結果も考慮して、ジェット流プラズマおよびブラックホール周辺プラズマについての物理量値に制限を課していく。
このような試みにより、宇宙ジェット観測という遠方領域の観測からブラックホール近傍のプラズマ環境を探ることができると期待している。
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Causes of Carryover |
今年度は他機関からの研究費の受け入れ研究費があり、一部の(本研究との)共通的経費をその研究費から支出することができた。一方で、次年度以降の研究遂行のための研究経費については、若干減額されて交付されている事情がある。そのため、今年度配分された研究費の一部を次年度以降に使用することとし、円滑な研究活動ができるようにした。 次年度配分の助成金と当該年度に繰越した助成金は、主として海外共同研究者(モンタナ州立大学:米国)との研究打ち合わせのための費用や、銀河系中心ブラックホールの観測(すばる望遠鏡、国立天文台ハワイ観測所:米国)のための費用に充てる予定である。
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