2020 Fiscal Year Research-status Report
Exploration of Black Hole Spacetime and Origin of Astrophysical Jets
Project/Area Number |
17K05439
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
高橋 真聡 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242895)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ブラックホール / 宇宙ジェット / 磁気流体力学 / 一般相対性理論 / 磁気圏構造 / 銀河系中心 / 粒子加速 |
Outline of Annual Research Achievements |
活動銀河M87宇宙ジェットの加速機構について考察した。ほぼ光速の相対論的速度で噴出している宇宙ジェットは、中心核の巨大ブラックホール近傍の磁気圏領域において形成されると考えられる。本研究では、宇宙ジェット形成領域からジェット加速領域にかけて磁場が卓越し、大局的磁力線が回転することでローレンツ力(磁気遠心力)が発生し、磁気プラズマが宇宙ジェットとして相対論的速度にまで加速される理論モデルを構築し、観測データを再現した。 宇宙ジェットの加速効率や加速領域を特定するためには、磁力線の形状と回転角速度、輸送されるエネルギーと角運動量について明らかにする必要がある。そこでプラズマ流が磁気音速やアルフェン速度を超えて加速するための臨界条件を解析し、流れの物理パラメータに課せられる制限を明らかにした(ジェットの終端速度、磁気圏内の light suurface, Alfven surface, fast magnetosonic surface の分布、inflow と outflow との分流点を明らかにできる)。磁力線形状の数理解析は解法に難しい扱いを含むので、ここでは磁場が強い極限での数値シミュレーション結果や、電波VLBI 観測から得られたM87宇宙ジェット形状を指針として、磁場形状を推定した(放射状形状~やや放物型形状の磁場構造が尤もらしい)。 モデルを記述する物理量をパラメータサーチすることで様々な宇宙ジェット解の構造を調べることができるが、どの物理パラメータが宇宙ジェットのどの性質を特徴づけるかについて明らかにすることができた。さらに、M87宇宙ジェットの速度分布の観測データにフィットさせることで、M87宇宙ジェットの light surface (角速度)、 Alfven surface (角運動量)、プラズマ源の位置を初めて推定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度の段階でいくつかの研究成果が得られていた(宇宙ジェットの加速機構、磁気流体波によるブラックホールからの回転エネルギー引き抜き機構、銀河系中心巨大ブラックホール観測による一般相対論効果の検出)。今年度はそれらの成果を発展的に整理し、特にM87宇宙ジェットの加速領域について整理し、当初の研究目標を完了することができた。順調に進展することができたといえる。研究成果は論文として投稿した(2021年4月段階で査読中)。 さらに、今回の研究で理論モデルと観測データをフィットさせることで「ジェットプラズマ発生領域」が特定できたことより(ブラックホール半径の100倍程度)、その内側領域のプラズマ流(inflow)に関する研究に着手できる段階に至った。なお、この流れはプラズマ源からブラックホールに向かう「内向きのジェット流」であり、強重力場により歪められた時空構造を大きく反映した流れとなる。この内側領域に対応する観測データはまだ検出されていないが、内向きジェット流モデルの構築は将来の電波VLBI 観測(ブラックホール探査)の動機付けになる理論的研究として重要になる。 一方で、解析結果を得たものの、執筆中の論文が3本残ってしまった(共同研究を含む)。この遅延は、研究成果についての追計算・再確認、および共同研究者との調整のためである。これらの未完了の活動については次年度の前半には完了する予定である。また、コロナ禍の状況下にあって研究成果を国内学会・研究会や国際会議などで公開する機会に恵まれず、次年度以降に実施する見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はコロナ禍の状況にあり、研究成果発表(国内学会、国際会議など)および研究打ち合わせのための出張を断念した。そのため、当初予定した旅費等が未使用となった。これを次年度に繰り越し、本研究を1年間延長することにした。今までの研究で本研究の目標は一段落したが、1年間の延長期間において次の段階の研究テーマに着手する。 今後の研究としては、宇宙ジェット(relativistic outflows)の加速機構を主テーマにしつつ、ブラックホールへの inflow 解析解についての物理的制限や、既に得られた outflow 解析解との接続について新たに考察する。Inflow 解析解の扱いに先立ち、outflow 解についてはその性質が明らかにできていて、解析方法についても整理できている。この手法を inflow に拡張・適用することにする。Inflow 解の解析に際しては、ブラックホールの強重力場による重力赤方偏移の効果や時空の引きずりの効果のため、基礎方程式系が複雑となり、物理的に意味のある解が存在するための条件も複雑になる。このため、この研究テーマは国内のみならず国際的にも着手されてこなかった。相対論的磁気流体の数値シミュレーションによる研究はいくつかあるが、解析解にはシミュレーションでは扱えない物理パラメータ領域を考察できる強みがあり、新たな切り口の探求が期待できる。次年度は、ブラックホールへの inflow をモデル化するため、流れに沿って保存量が存在することに着目して解析解を分類し、それぞれの特徴を明確にする。その上で、outflow との接続(境界条件)を検討し、inflow に繋がる物理パラメータを制限する。その上で電波VLBI 観測やガンマ線観測等との照らし合わせに取り組み、ブラックホール時空のパラメータ値を特定し、ブラックホール周辺プラズマ環境を明らかにする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の状況下にあって、研究成果発表や研究打ち合わせのための出張を取り止めた。また、当初計画で予定していた研究会主催(ブラックホール磁気圏研究会など)についても取り止めたため、研究費に未使用額(次年度使用額)が生じた。 次年度使用額については、研究成果発表や研究打ち合わせのための出張旅費、研究会主催のための費用(2022年3月大阪市立大学を会場として開催予定)、プリンター関連消耗品、パソコン周辺機器消耗品として使用する。
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