2017 Fiscal Year Research-status Report
The study on nuclear structure and matter using finite-range three-body interaction
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17K05440
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
板垣 直之 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (70322659)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 昭弘 (東崎昭弘) 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (20021173)
岩田 順敬 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 研究員 (70707380)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 原子核構造 / シェル構造 / クラスター構造 / 非中心力 / スピン・軌道力 / テンソル力 / 原子核反応 / 3体力 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核は通常、シェル模型に代表されるように、陽子や中性子が独立に一体ポテンシャル中を運動しているが、4He原子核(α粒子) は特別に結合の強い原子核であり、軽い核では4核子相関(αクラスター相関) は重要な役割を果たす。しかし単純なクラスター模型では、原子核系において重要な非中心力の効果を取り入れることができない。これまで我々は、シェル模型とクラスター模型の競合を分析し、原子核系では非常に強いことが知られるスピン・軌道力と呼ばれる非中心力が、αクラスター相関を壊し核子の独立運動を促進する役割を果たすことを議論してきた。現在までに、このAlgebraic Quasi Cluster Model (AQCM)を提案し、波動関数内に、クラスター間の距離、クラスターの崩れという2つのパラメータを導入することで、クラスター状態からjj-coupling 的なシェル模型波動関数への転移を記述可能にし、これをさまざまな原子核に適用した。 さらに、計算に用いる有効相互作用として、有限レンジ3体力項を持つTohsaki力を用いた。今年度は、酸素同位体のドリップラインである24Oに関する研究を論文にまとめた。24Oは十分に大きな中性子の束縛エネルギーを持ちながら、観測された半径は中性子ハロー構造をもつもののように大きい。このことを、中性子の数の増加とともにおけるコア原子核の部分の膨張として微視的に記述した。 さらに、もうひとつの非中心力であるテンソル力がクラスター・シェル競合に与える影響について考察し、論文にまとめた。我々は既に、αクラスター模型を拡張し、テンソル力の効果を取り入れることができる模型を提案しているが、従来の模型を上回る、効果的なテンソル力の効果の取り込みを提案した。特に、16Oにおいて、テンソル力によるクラスター間の距離の増大を議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は1年目であるが、代表者板垣が著者に入っている論文を7本、国際雑誌に掲載することができた。本プロジェクトによる研究が無事に出発するのみならず、既に学術雑誌に掲載という最終的な形まで持っていけ行ける課題もいくつかあった。 上記の実績欄で述べた以外の計画以上の成果としては、以下のものが挙げられる。まず研究課題名にもなっている有限レンジの3核子間力を含む相互作用を用いて、さまざまなαクラスターの幾何学的配位の安定性を調べ、論文にまとめた。原子分子の世界では、炭素原子がサッカーボール形状に結合したフラーレンの存在が知られているが、これをα粒子に置き換えた60α原子核の構造分析を行った。α粒子が遠方から近づいてきた場合、このような幾何学的な構造は、遠方で最も重要な役割を果たすクーロン力の効果を小さくする働きがある。結果としてαフラーレン構造は、状態としては非束縛であるが、エネルギーは半径の関数としてはっきりとした安定な極小値を持つ事がわかった。 もうひとつの計画以上の成果は、本研究で進めている微視的な原子核構造の計算フレームワークと、微視的反応計算との融合である。本研究の原子核構造で得られた波動関数を、実際の実験観測量である散乱断面積に焼き直すには、間に原子核反応理論の介在が必要であるが、ここを非常にストレートに持っていけることを示した。これに関して、今年度は2本の論文の出版を行った。ひとつはベルギーのブリュッセル自由大学との共同研究で、9Beの構造を計算し、それを鉛標的に入射した際の散乱断面積をCDCC法を用いて明らかにした。もうひとつは横浜国立大学との共同研究で、中性子過剰なLi同位体の構造を反応計算と接続して明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は順調に推移している。 今年度は、これまでの原子核構造に対する研究で用いた有効核力を無限系に近い中性子核物質に適用して、核物質の巨視的な性質を核力から直接的に検討する。ここでは、3次元の格子上に配置された中性子群に対し、完全に反対称化された微視的波動関数を用いて、全ての2核子間・3核子間に作用する核力の効果を積み上げて、そのエネルギーなどを計算する。中性子星のスケールで考えた場合、10の60乗個あまりの核子群を考えることが必要になるが、現在までに、このような系に対してもハミルトニアンの行列要素の解析的な表式を得ることに既に成功している。これを用い、中性子核物質における2核子間や3核子間に作用する核力の役割を微視的に明らかにする。さらに、核子-核子散乱から決められる現実的な核力を用いた場合の結果と比較し、中性子星の半径などの観測量と計算に用いられる核力の基本的性質とを、完全に微視的な核構造研究によって結びつけ比較する。 もうひとつの課題は、α崩壊の微視的な理解である。α崩壊は100年あまりにわたって知られてきた原子核の崩壊過程である。しかし、1体ポテンシャル中を核子が独立に運動するという描像に立脚したシェル模型では、原子核の表面付近に4つの核子が局在する成分を記述するには巨大な模型空間が必要になり、実際のところ崩壊確率を過少評価してしまう。一方クラスター模型に立脚した場合、原子核の表面付近におけるαクラスターの存在は良く記述されるが、原子核の内側におけるクラスターの溶解と核子の独立運動の回復、そこにおけるスピン・軌道力の効果などを評価できない。これまでの本研究により、クラスター模型的状態のシェル模型的状態へと連続的な変化を記述可能にしており、原子核物理学の長年の夢であったα崩壊の微視的な理解を目指す。
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Causes of Carryover |
成果発表の出張機会を相当数見送ったため。次年度はより多くの機会に成果を発表できるように努める。
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Research Products
(13 results)