2018 Fiscal Year Research-status Report
Study of nuclear radii in exotic multi alpha cluster states
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17K05454
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
伊藤 誠 関西大学, システム理工学部, 教授 (30396600)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | αクラスター構造 / 核半径 / 核反応 / フランフォーファー回折 / ハイパー核 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、軽い原子核の励起状態に、複数のα粒子が弱く束縛した「多重αクラスター構造」の存在が議論されており、更に原子核にΛ(ラムダ)粒子を投入して得られる「エキゾチック原子核系」にまで、多重αクラスター構造の存在が議論されてきている。これらの多重αクラスター状態の特徴の一つとして、核半径の異常増大が指摘されていたが、それを実証することはこれまでほぼ不可能であった。本研究では、多重α状態を生成する反応断面積に着目し、その振る舞いから核半径の異常増大を実証しようとするものである。 これまでは主に12Cの励起状態に形成される3αクラスター状態に注目した分析を行ってきた。具体的にはα+12C非弾性散乱により12Cの3α回転状態を終状態として励起する反応チャンネルに注目し、その微分断面積の振る舞いから3α回転状態の核半径増大を具体的に指摘することに成功した。研究成果がある程度まとまってきたため、今年度は国際会議報告、論文執筆に集中し、「SOTANCP4」(5月アメリカ)、「EXON2018」(9月ロシア)、「WNCP2019」(11月中国)、「NN2018」(12月大宮)等で報告した。これらの報告を通し、先行研究を進めてきたロシアのモスクワ大学の実験グループとの間で議論が度々なされ、分析方法と結果の解釈についての意見交換がなされた。申請者の研究手法とロシアグループのそれとは概念的には類似しているが、核半径の定量的な評価方法については根本的に異なっており、統一的な見解は得られなかった。今後両者の相違点を分析し、国際的なコンセンサスを得ることが重要であると思われる。 一方、昨年度より進めていた13C + K- --> 13ΛC +π-反応についても分析を継続している。国内グループが進めた黒玉模型を併用することにより、K-粒子が核半径の13ΛC原子核の核半径変化に敏感であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は平成29年度に遅れがでてしまった16O=4α系の分析を進めるべく、準備を進めた。4α系の分析を進めるためには、α+16O-->α+4α反応の微分断面積の実験データが必要不可欠である。この実験データは既に得られていたが、解析が終了していなかったため、実験グループと連携し、実験データの分析について討論を行った。その結果、実験データの分析が進み、その数値データを提供してもらう段階に至った。また理論的な分析方法についても議論し、計算のチャンネル設定や微分断面積の分析方法等といった計算の具体策を決定するに至った。 しかしながら、α+16O系の反応計算はまだ進んでおらず、それは今年度の進めるべき課題である。反応計算が進まなかった理由は、実験データの整備にやや遅れが生じたこともあるが、16Oの遷移密度の整備にもやや時間を要したためである。遷移密度は本研究での理論計算の入力となるため、なるべく高精度なものを準備する必要があった。現在、16Oの遷移密度をある程度整備することができたので、これから理論計算に入ることが可能である。 一方、α+12C非弾性散乱の分析について国際会議で報告を行い、ロシアの実験グループと複数回討論を繰り返したが、分析方法と結果の解釈等については一致した見解を得ることができなかった。この不一致を解消するため、昨年度は新たな論文執筆に着手したこともあり、新規の理論計算を進める余裕があまり無い状況であった。 本年度はα+16O系の理論計算を進めるとともに、α+12C系の新たな論文を執筆する予定である。また、昨年度に平成30度計画を前倒しして着手した13C + K- --> 13ΛC +π-反応の論文執筆は進んでいるため、こちらは予定通りである。α+16O系には遅れが生じており、13C+K-系は予定通りの進捗となったので、全体としてはやや遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の研究期間は最終年度にあるため、申請者が目指すべきことは以下の二点である。すなわち、1. 多重α状態の核半径増大の系統的分析、2. 核半径増大の実証に関する国際的なコンセンサス、である。 1に挙げた系統的な分析としては、12C=3αを超えた系において同様な分析を展開することである。3αクラスター状態の次の典型例として挙げられるのが16O=4α系であるため、少なくともこの系に対する分析を進めることが望ましい状況である。理論計算の遂行には16O系の遷移密度の整備が必要不可欠であるため、遷移密度計算を担当している関東学院大学のグループと引き続き連携して研究を継続する。 2に指摘した国際的なコンセンサスについては、先行研究を進めているロシアグループとの見解の一致を得ることが最重要であると考えている。申請者はこれまで複数回の国際会議で報告を行ってきたが、参加者からの意見は概ね良好であり、申請者の分析方法や結果の解釈については一定の支持が得られていると自負している。しかしながら、αクラスター状態の核半径増大は、原子核物理の基本的課題の一つであるため、その分析方法・解釈において国際的なコンセンサスを固めることが重要であると申請者は考えている。 αクラスター状態を励起する反応断面積の振る舞いから核半径の増大を評価する際、規準となる反応チャンネルを別途指定する必要があるが、この基準チャンネルの設定について、申請者とロシアグループの間で見解が完全に分かれてしまった。この見解の不一致を解消するためには、核構造計算で得られる「核半径」と反応計算で得られる「微分断面積」といった二種類の観測量の間の関係を明確に示す必要があると思われる。一般に核半径と反応断面積は遷移密度を介して結びつくが、この遷移密度の役割を具体的に示す論文を発表することが国際的なコンセンサスを得ることに繋がると考えている。
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