2017 Fiscal Year Research-status Report
動力学模型による未知超重元素の新しい生成手法の研究
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17K05455
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
有友 嘉浩 近畿大学, 理工学部, 准教授 (90573147)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超重元素 / 安定な島 / 動力学模型 / ランジュバン方程式 / 統計模型 / 新元素合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に基づき本年度は、まず統計模型コードの開発を実施した。現在、我々の研究室で開発中の統計模型コードKiSTATは、より原子番号の大きな元素を合成するために、(HI,xn)反応に焦点を当てたものである。このKiSTATにα粒子放出および陽子放出過程を取り入れることで、(HI, αxn)反応および(HI,pxn)の評価を可能とした。これにより(HI,xn)反応では到達できない中性子過剰領域の蒸発残留核生成の定量的な評価が可能となり、「安定な島」への到達可能性も議論できるようになった。既存の統計模型コードで荷電粒子放出を考慮したものは存在するが、その中身は明瞭ではなく開発者以外の者が改良を施すのは困難を伴うため、超重元素合成に特化した日本国内の統計模型コードの必要性が以前から実験研究者を中心に指摘されていた。今回、(HI, αxn)反応および(HI,pxn)による中性子過剰な未知の超重元素を合成の可能性、特に安定な島への到達可能性を評価することが出来るようになった意義は大きいと考えられる。 次に研究実施計画の二つ目の課題である「粒子放出に伴うポテンシャルの変動を考慮した3次元ランジュバンコードの開発」を行った。既存のランジュバンコードにおいてポテンシャルの読み込み部の変更、それに伴う計算のアルゴリズムを変更しコード全体の改良を実施した。また中性子放出に伴う複数のポテンシャルを計算しデータベースを作成した。超重元素合成に伴う融合分裂反応では、粒子放出に伴う複合核の温度低下、それによる殻補正エネルギーの復活が重要な役割を果たしている。ただしこれらの定量的な議論や検証は行われていないのが現状である。今回の改良により、融合分裂過程をより現実的に扱うことが可能となり、さらに計算結果を解析することでメカニズムが解明され、結果として新元素合成の新しい手法の提案に結び付くと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
荷電粒子放出過程および角運動量依存を考慮したオリジナルな統計模型コード(KiSTAT)の改良を行った。このコードを用い、様々な実験データとの比較、パラメータの設定、コードの特性などを調査し、コードのエラーなども検証し改良を行った。また成果報告を2018年3月の物理学会において報告を行い、(HI, αxn)反応および(HI,pxn)反応による安定な島への到達可能性において定量的な評価の結果を示した。現在、開発したコードは実用可能であり、今後、新元素合成の可能性の検討、評価に用いる。 次に粒子放出に伴うポテンシャルの変動を考慮した3次元ランジュバンコードについて、コード開発は終了し現在はテスト段階である。中性子放出によって中性子数が変化したポテンシャルのデータを読み込めるようにコードを変更し、それに伴って計算アルゴリズムを変更した。さらに中性子数の異なるポテンシャルをデータベース化し計算に必要な入力ファイルに瞬時にアクセスできるように改良した。現在、計算コードのエラーの検証はほぼ終了しており、計算実績のある48Ca+244Pu等の系で計算を実行し、改良前の計算結果と比較することで、中性子放出によるポテンシャルの変動の効果を調査している段階である。さらにメカニズムなどを解析することで、新元素合成に向けた新しい手法との提案に結び付くと考えている。 また現在の計算コードを用いて蒸発残留核断面積を計算し、コード内に現れる不定なパラメータの値の依存性を系統的に調べている。実験値と比較することで、超重元素領域では捕獲断面積の計算値の不定性が、最終的な蒸発残留核断面積の不定性に大きく影響することが分かった。そこで、捕獲断面積の計算アルゴリズムを見直し、実験値を再現するように改良を加えている段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に基づき、平成29 年度までに開発した「統計模型コードKiSTAT」および「中性子放出に伴うポテンシャルの変動を考慮したランジュバンコード」を用いて系統的に計算を実行し、安定な島への到達可能性についての評価を行う。計算実行中に計算コードの不備な点、改良が必要な点が見つかれば、随時コードの修正を行う。 まず安定な島への到達確率の計算を行う前に、コードの精度について評価を行う。具体的には実験データが豊富にあるウラン領域の原子核および超重元素領域の原子核に対し、粒子放出多重度の実験データと計算値を比較する。実験データを再現するように統計模型コードの中に現れるパラメータの調整(準位密度パラメータや摩擦係数等)を行うことで、統計模型の精度を上げる。 核図表において安定な島の西側に位置する原子核は、現在の実験施設において(HI,αxn)を用いれば生成可能であると考えられている。そこで、開発したKiSTATと粒子放出の入ったランジュバンコードで生成確率の評価を行い、到達可能性を議論する。次に安定な島の中心とされる298Fl の生成確率について評価を行う。298Flを重イオン融合反応で生成するためには、複合核からの中性子放出や荷電粒子放出等の影響から、実際は298Flも重い原子核(Z およびN の大きな原子核)の生成可能性を議論しなければいけない。開発を行ったKiSTATとランジュバン方程式を用いて、蒸発残留核断面積の計算を行い、最適な複合核と励起エネルギーを探索する。このような反応系は、現在の実験技術では実行不可能であるが、計算による評価によって、その実現性に向けての議論が可能となる。
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Causes of Carryover |
他の用件で共同研究者と会う機会が多く、研究打ち合わせ等による旅費の支出が当初の計画より少なくなり、また余剰金が2033円と小額であるために、次年度の使用計画には大きく影響しないと考えられる。
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Research Products
(4 results)