2018 Fiscal Year Research-status Report
隕石組成との比較による太陽系形成直前に発生したr過程元素合成の解明
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17K05459
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
梶野 敏貴 国立天文台, 理論研究部, 准教授 (20169444)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 原子核(理論) / r過程 / 元素合成 / 太陽系 / 隕石 / 銀河化学進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的は、急速な中性子捕獲反応過程(r過程)を起こす起源天体環境の解明である。鉄より重い元素の半分以上は未知の爆発的天体現象におけるr過程で生成され、その生成物が初期太陽系に混ざったと考えられる。r過程の天体環境は不明であるが、その有力候補は、中性子星連星系合体(NSM)、磁気回転流体ジェット型超新星爆発(MHDJ-SN)、ニュートリノ加熱型超新星爆発(Neutrino-SN)である。始原的隕石の研究が進み、r過程で生成された長寿命の放射性同位体が太陽系形成時に存在していたことが判明した。r過程モデルの計算結果との比較から、起源天体の正体と発生した年代を明らかにすることが目的である。 研究実施計画は3段階からなる。まず、NSM、MHDJ-SN、Neutrino-SN モデルの構築とr過程元素の組成計算の実行である。次に、それぞれの元素組成結果を、各天体現象の発生頻度に併せて銀河系化学進化に応用する。最終的に、この理論計算を太陽系形成時の放射性同位体組成値と比較することで、どの天体現象がもっとも実測値を合理的に説明できるかを明らかにする。 2年目にあたる2018年度は、初年度に行ったNSM、MHDJ-SN、Neutrino-SN モデルの構築とr過程元素の組成計算結果に基づいて、主に原子核物理学の観点から、非対称な質量数を持つ核分裂片の分布と核分裂サイクルが、最終的なr過程元素量に及ぼす影響を研究した。また、それぞれの天体の発生頻度と宇宙空間への物質放出過程を考慮した銀河化学進化モデルの構築に着手し、宇宙初期から太陽系形成に至るまでのr過程元素量の宇宙時間変化の研究を始めた。最終年度の放射性同位体組成比に及ぼす様々な理論モデルパラメータへの依存性の研究へと繋げる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年に現れた中性子星連星系合体と考えられるGW170817のマルチメッセンジャー観測からr過程元素組成に関する詳細な情報を得ることは原理的に不可能である。理由は、中性子星連星系合体過程はミクロな原子核ハドロン過程・ニュートリノ過程を含み3Dで扱うべき一般相対論的流体過程であること、geometry & kinematics があまりに複雑な爆発天体現象であり、光赤外線波長域の天体観測を定量的に説明するには原子過程および opacity の理解がまだ乏しいこと等多くの不確定要素があることである。本研究計画は、このような天文観測の限界と理論解釈上の困難が生じる可能性を予見して立てられた理論研究計画である。最も大きい独自性は、原子核・素粒子実験で得られている核反応率、核分裂モード、ニュートリノ反応率などの基礎物理過程に関する確実なデータを爆発的天体現象の理論計算に用い、天文学的な不定性と物理的な不定性を分離することにある。さらに、本計画の独創的な点は、世界中のほとんどの研究者が中性子星連星系合体(NSM)単独で重元素組成の説明を試みていることと一線を画して、r過程の有力天体である磁気回転流体ジェット型超新星爆発(MHDJ-SN)、ニュートリノ加熱型超新星爆発(Neutrino-SN)をも同時に考慮し、3種類の各天体の発生頻度と宇宙空間への物質放出過程を考慮した銀河化学進化という観点から、太陽系形成に至るまでのr過程元素量の宇宙時間変化を理論的に研究してさまざまなobservablesを予測し、是非を天文観測および物理実験によって検証する点である。初年度の基礎研究の上に現実的なr過程元素合成計算が可能となり、物理学の持つ定量性を宇宙・銀河進化の研究に持ち込めたという観点から、地に足の着いた研究がおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の中性子星連星系合体(NSM)、磁気回転流体ジェット型超新星爆発(MHDJ-SN)、ニュートリノ加熱型超新星爆発(Neutrino-SN)でのr過程元素の組成計算結果に基づいて、3種類の各天体の発生頻度と宇宙空間への物質放出過程を考慮した銀河化学進化モデルの構築を始めている。最終年度は、これを完成させ、宇宙初期から太陽系形成に至るまでのr過程元素量の宇宙時間変化の詳細なる研究を進める。 まず第一に、最終目的の一つである太陽系に存在する放射性同位体組成比の理論予測と隕石分析との比較を行うためには、世界中のRIBF(Radioactive Ion Beam Factory)で行われている不安定な放射性原子核構造・反応実験で得られる新しい知見を即座に取り入れ、常によりベターな精緻なる元素合成モデルの改善を行い続ける必要がある。第二に、初期宇宙に誕生した金属量に乏しい銀河ハロー星のr過程元素量の観測値と、太陽系すなわち現在のr過程元素量の観測値とを結ぶ整合性のある銀河化学進化モデルの構築を行う必要がある。太陽系形成に関しては、まず太陽質量の星間ガスが凝縮を始め、原始太陽系を得て現在の太陽系が誕生したと考えられるため、太陽系形成直前に太陽系近傍で爆発的r元素合成過程を含む天体現象(NSM、MHDJ-SN、Neutrino-SN)が発生し、その生成物の一部が初期太陽系に混ざったとするモデルを作る。第三に、これらを結合して、太陽系形成時に存在していたと考えられる放射性同位体組成比を理論的に予測し、隕石中に見つかった測定値との詳細なる比較研究を行う。
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Causes of Carryover |
旅費の見積もり額と実費に差があったため。物品費として使用する。
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Research Products
(37 results)