2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K05473
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
加藤 幸弘 近畿大学, 理工学部, 教授 (60278744)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | セラミックGEM / ガス検出器 / 増幅率 / エネルギー分解能 |
Outline of Annual Research Achievements |
LTCC(低温焼結セラミックス)GEMは2015年に都立産業技術研究センターの小宮氏と平井精密工業株式会社が開発し、高い耐放電特性、高い増幅特性と安価な製作費用の利点を有する。また、セラミックスは従来のGEMに使用されているLCP等のプラスチックと比較して非常に硬くて伸縮性がないので、GEMが検出器にたわむことなく装着するための支持機構を簡略化できることも利点である。このような利点を利用することが出来れば、研究代表者が参加している国際リニアコライダー計画の中央飛跡器の電子増幅機構に有効であると考えて、LTCC-GEMの基本特性の研究を開始した。 平成29年度は10㎝角の大きさで有感領域(孔が開けられた領域)が6㎝角のLTCC-GEMを用いて増幅率、エネルギー分解能、増幅率の一様性を測定した。これまでに製作されてきたLTCC-GEMの厚さは100μmであったが、小さな力であっても局所的に加えると簡単に割れてしまうために、平井精密工業と協議して200μm厚のGEMを製作した。厚さを2倍にすることで外力による割れがほとんどなくなり、自重によるたわみもほとんど見られなくなった。この2種類の厚さのGEMで増幅率とエネルギー分解能、200μmのGEMで増幅率の一様性をX線源を用いて測定した。得られた増幅率は最大で1800(100μm)と3000(200μm)であり、GEM両端に印加した電圧と増幅率の関係は検出器内ガスの種類によらずほぼ一定であった。得られたエネルギー分解能は、放電の影響が少なく増幅率が100を超える範囲においてGEMの厚さによらず約20%(FWHM)であった。また、1cm角の領域毎の増幅率の変動は10%未満(FWHM)であるが、系統的な非一様性が生じているかは不明であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の計画は厚さが100μmと200μmで10cm角の有感領域を有するLTCC-GEMを製作して基本的特性を測定することと、ILD-TPC用大型GEMモジュールに適合する電極基板とカソード基板の製作であった。2種類の厚さで10cm角の有感領域を有するLTCC-GEMは製作したが、それらを用いた測定は実行できなかった。しかし、有感領域が6cm角のGEMを用いた増幅率等の基本的特性の測定は放電頻度測定を除いてほとんど完了しており、今年度に得られた結果は有感領域にさほど依存しない特性であるので、予定通り進捗したと言える。また、放電を抑制するための方策として、追加でGEM両面に金メッキを施した有感領域が6cm角のGEMも製作して増幅率を測定した。金メッキをしたGEMは金メッキ無しのGEMよりも高い印加電圧まで放電が抑制されたために高い増幅率が得られ、金メッキは放電抑制の一つの方策であることが理解できた。 大型GEMモジュールに適合する電極基板は有感領域が25cm角の正方形の基板を予定通り製作したので、平成30年度には検出器モジュールの製作に進める。カソード基板は導電性透明フィルムを使用する製作する計画であったが、製作は完了していない。しかし、従来の10cm角GEM検出器に適合するカソード電極を入手した導電性透明フィルムで製作し正常に動作することを確認したので、検出器モジュールの製作完了までにカソード電極は製作完了できる状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
有感領域が10cm角のLTCC-GEMでの基本特性の測定と放電抑制方法のさらなる検討、ILD-TPC用大型GEMモジュールに適合した大型LTCC-GEMの製作とその基本特性の研究を進める。 6cm角と10cm角の基本的特性の大きな違いは増幅率の一様性と放電頻度であり、これらを早期に測定することを予定している。増幅率の一様性はGEMの絶縁体の厚さのばらつきに大きく依存する。LTCC-GEMは材料を焼結させることで製作するので、焼結したセラミックスの厚さのばらつきは少ないことが予想できるが、増幅率に対して無視できるほどのばらつきであるか不明である。そのために実際に製作して増幅率のばらつきを評価し、ばらつきが大きかったり系統的である場合には製作方法の検討が必要になる。放電頻度も有感領域が大きくなれば高くなると予想できるので、10cm角のGEMの放電頻度が従来型GEMの放電頻度と同等程度になるように放電抑制方法のさらなる検討を行う。 大型LTCC-GEMの製作は次年度に行うことを念頭に平井精密工業と議論してきたので、次年度半ばまでには製作を終え、基本的特性の測定を開始する計画である。有感領域の大きさが25cm角で全体として30cm角のLTCC-GEMまでは製作可能であるので、この大きさでのGEMを製作する。厚さに関しては、今年度の経験から自重によるたわみが少なく扱いやすい200μm厚を採用する。大型GEMを設置する検出器モジュールは、大型GEMのデザインが確定した後設計・製作を進める。ただし、検出器モジュールは現在使用しているモジュールとほとんど同じ仕様となるので、さほど時間をかけずに完成できる。したがって、大型GEMによる測定は次年度末までには開始する計画である。
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Causes of Carryover |
今年度の物品費が当初計画よりも30万円程度少なかった理由は、大型GEMモジュール用電極基板の製作費を予定していた金額よりも大幅に削減したためである。電極基板は当初の計画では多層基板であったが単層で製作が可能になるように検出器モジュールの仕様を検討した結果、単層の電極基板でよくなり製作費が大幅に少なくすることができた。 次年度使用額と当初予定していた平成30年度の直接費用で、検出器モジュールと大型LTCC-GEMの製作を行う計画である。これらの製作は当初から予定されていてそのための予算も計上していたが、その額は十分ではなかったことが研究を進めて行く中で明らかになった。しかし、次年度使用額もそれらの製作費に充当することで計画にしたがって製作できるので、平成30年度の研究を予定通り進める計画である。
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