2018 Fiscal Year Research-status Report
超高効率超高速赤外発光計測システムの開発と応用展開
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17K05505
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Research Institution | Toyota Physical and Chemical Research Institute |
Principal Investigator |
末元 徹 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (50134052)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フェムト秒発光 / 赤外発光 / アップコンバージョン / 金属 / 非平衡電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
<装置開発> フェムト秒発光スペクトロメータはH29年度に実用レベルの性能を達成したが、今年度さらにいくつかの改良を行い、更なる性能向上を実現した。光源のYbファイバーレーザは、出力安定性に問題があったので、フィードバック回路による安定化を試み、長時間変動を±1%以内に抑えることに成功した。これにより測定精度が格段に上がった。計測系に関しては4フィルター自動切換えの分光器を開発し、試運転を終えている。これにより、全波長領域で自動測定が可能になる。アプコンの光学系については、1号機で蓄積した経験を元に2号機を設計製作し、試運転中である。検知器にAPD(アバランシェ・フォト・ダイオード)を用いることにより、格段の小型化が実現し、冷却水が不要でノイズに強いという特性から利便性も向上した。感度については、現在検証中であるが、0.9eVにおいて少なくとも光電子増倍管より高いことを確認した。 <物性測定> 昨年度、Pt, Sn, Alなどにおける発光を確認したが、今年度は、さらに、Au, Ag, Cu, Pd, Ni, Zn, Tiおよび合金(ステンレス、真鍮)において測定を試み、すべての試料で発光を確認できた。これにより、フェムト秒赤外発光は金属全般の普遍的な現象であると結論できる。発光強度が高く、寿命が長いAuの発光について特に詳しく調べ、時間波形、時間分解スペクトル、励起強度依存性などの振舞いを説明するための理論モデルを構築した。その結果、非熱化電子と熱的電子を考慮したモデルで実験結果を定性的に理解できることが分かった。また、AuとCuについて表面状態と発光強度の関係を系統的に調べた。その結果、適切な表面ラフネスを持たせることにより、発光強度が平滑な蒸着膜に比べて約1000倍増強されること、増強の原因は、表面凹凸による放射率と吸収率の増加であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた楕円面鏡の導入による集光効率の改善は、反射率、集光精度の保証が得られないため断念した。一方、当初の計画にはなかったAPDの導入は順調に進み、スペック上は数倍の感度向上が見込めるので、この路線で最終年度に目的を達成するという方針に切り替えた。フェムト秒発光スペクトロメータの小型化、安定化、自動化などの高度化は順調に進んでいる。ただし本研究の完成形を目指した2号機の構築には予想以上の時間を要している。その原因の一つは、光学系の設計や光学素子の選定が必ずしも適正ではなく、最適化に試行錯誤を要したためであるが、本質的な問題はほぼ解決した。もう一つの原因は、1号機による物性測定を優先したためである。バルク金属の発光が表面ラフネスの制御により約1000倍増強されるという予想外の興味ある結果が得られたので、その原因を究明するために、表面処理法の最適化、レーザー顕微鏡によるラフネスの計測、赤外分光光度計による拡散反射率の測定、新たに試作した熱量計による吸収率の評価など、いくつかの付加的な作業が必要になった。また、レーザー照射による試料の劣化や強度揺らぎの発生など測定上の諸問題を解決するために時間が必要であった。 その一方で物性測定に関しては、「応用展開」の柱である、金属の発光現象に関して、表面ラフネスの役割が明らかになってきた点、簡単ではあるが理論モデルが提案できた点で、計画2年度目としては予想以上の進展があったと言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
<装置開発について> 装置の小型化はすでに30cm×30cmの2号機が試運転の段階にあるので、達成の見込みが立っている。感度に関しては、バンドパスフィルタの採用により、4~10倍の向上を実現しているが、本研究の目標を達成するにはさらに数倍の向上が必要である。これに関しては前項に述べたようにAPDの採用と光学系の最適化により実現を目指す。 <物性測定> これまでの研究により、Auについてフェムト秒発光の全貌が明らかになり、定性的な解釈もできたので、論文としてまとめて投稿中である。予備的な測定によれば、同じ1B族元素であるAg, CuもAuと同様の振舞いをすることが分かっているので、これらの金属について精密なデータを収集し、電子構造や電子フォノン相互作用の観点から系統的な理解を試みる。電子が1つ少ない、8族元素、Pt, Pd, Niでは発光寿命が1B族に比べて短いことが予備的な測定から分かったので、1B族と合わせてこれら6元素の振舞いを比較することにより緩和メカニズムを議論したいと考えている。表面ラフネスの効果については、もっと制御性のよい加工法を探索すべく、サンドブラストやレーザー加工の手法を試みているところである。また、近年応用の観点から注目されているレーザー改質表面や、金属ナノ構造の評価法としての利用も進めたい。 現在解析に使用している理論モデルは非常に単純なものなので、より信頼性の高いモデルを構築するために、理論グループとの共同研究を開始した。これにより、金属発光のメカニズムのみならず、電子の超高速緩和のメカニズムについても理解が進むものと期待している。
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Research Products
(6 results)