2018 Fiscal Year Research-status Report
フラストレート磁性体でのスピン液体状態の探索および関連した諸問題の理論的研究
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17K05519
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
福元 好志 東京理科大学, 理工学部物理学科, 准教授 (00318213)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ハイゼンベルグ反強磁性体 / 量子ダイマー模型 / フラストレーション / 球体カゴメ系 / ジャロシンスキー・守谷相互作用 / 磁化過程 / クラスター磁性体 / 熱的量子純粋状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず,ダイヤモンド装飾正方格子ハイゼンベルグ反強磁性体の低エネルギー有効ハミルトニアンとして得られる量子ダイマー模型について,相互作用パラメータのとりうる範囲を検討した。その結果,RVB状態が基底状態となるロキサー・キベルソン点を実現できることがわかり,ICM2018のプロシーディングスにまとめた。 次に,リープ格子ハイゼンベルグ模型の基底状態特性の研究について,本年度はフラストレーション効果を導入し,リープ格子とカイロペンタゴン格子をつなぐ模型でのスピン波展開を行なった。この模型は2種類のサイトを持つが,それぞれのスピンサイズを変えた計算を行い,そのサイズによる物理量(磁化など)の振る舞いの変化を調べた。その結果,基底状態が一重項の場合に他と異なる振る舞いが見られ,また,カイロペンタゴン格子に対応するパラメータ付近でスピン液体を示唆する結果が得られた。その結果を物理学会にて発表した。 続いて,球体カゴメ系の研究について述べる。球体カゴメ系{W72Mo30}にて低温磁化過程測定が行われ,クラスター磁性体で生ずるべきステップ構造が見られないことが報告されている。これに対し,ジャロシンスキー・守谷(DM)相互作用を導入すると低温磁化過程測定の実験結果が再現できることを示し,その結果を論文にまとめた。更に,熱的量子純粋状態の方法を用いて帯磁率の温度依存性を計算し,ICM2018のプロシーディングスにまとめた。 最後に,熱的量子純粋状態の応用に関するフォーマルな研究として,純粋状態を解に持つ時間発展の方程式を用いて開放量子系の量子状態の計算が可能であることを数学的に示した。その結果を物理学会及び量子情報技術研究会にて発表した。そのほか,サイト間斥力を含む拡張ハバードラダーにおいて電荷秩序金属内での秩序形成(強磁性・超伝導)の問題にも取り組み,物理学会にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スピン液体基底状態を実際に書き下すことができる模型としてトリックコード模型やロキサー・キベルソン点の量子ダイマー模型が知られており,それらの実験系作成に関心が持たれる。しかし,現実の系で実現しうる相互作用はスピン演算子の2次のものに限られる。トリックコード模型を有効模型に持つ2次のスピン模型としてキタエフ模型が知られており,特に昨年,α-RuCl3が磁場下でキタエフ相互作用に由来したスピン液体状態となることが報告され,非常に大きなインパクトを与えた。一方,本研究の今年度の大きな進展は,ダイヤモンド装飾正方格子上のハイゼンベルグ反強磁性の有効模型としてロキサー・キベルソン点の量子ダイマー模型が実現可能なことを見出したことにある。キタエフ模型の相互作用が実空間・スピン空間で異方的であるのに対し,本研究の模型の相互作用は等方的なハイゼンベルグ相互作用であり,その実現は格段に容易である。そのため,光格子量子シミュレータ上でも実現できると思われ,将来的に,本研究で見出した量子ダイマー模型のスピン液体状態が量子トポロジカル計算の実現につながる可能性もある。 球体カゴメ系{W72Mo30}の研究目的はRVB状態の特徴的な振る舞いの検出にある。しかし,磁化過程の研究を通じてDM相互作用の存在が明らかになってきており,その存在によってRVB状態の特徴的な振る舞いがかき消されてしまう懸念も出てきた。その一方,ごく最近の論文で比熱測定の結果が報告され,それによると低エネルギーシングレット状態の総数はDM相互作用がない場合の計算とほとんど変わらないとのことである。今後も予定通りRVB状態の特徴的振る舞いの検出に向け研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
球体カゴメ系{W72Mo30}の比熱測定結果と以前の理論計算(DM相互作用なし)の結果の間には不一致もある。特に,磁場中比熱の測定結果では,理論計算と比較して磁場依存性が小さくなっている。DM相互作用が磁場中比熱の振る舞いをどのように変えるかは興味深く,次年度の重要な課題である。ただし,歪みを含む球体カゴメ系{Mo72Mo30}ではDM相互作用の影響はあまりないように見え,状況は混沌としている。その一方で,{W72Mo30}で低エネルギーシングレット状態は多数存在しているので,RVB状態に起因した物性の測定は期待できると思われる。次年度は,トリプレット励起の分数化(スピノン励起)の問題にも取り組む予定である。 ダイヤモンド装飾正方格子上のハイゼンベルグ反強磁性の有効模型としてロキサー・キベルソン点の量子ダイマー模型を実現しうることがわかったので,この量子ダイマー模型でのスピノン励起の観測の問題にも興味が持たれる。また,ネール秩序を持つ正方格子ハイゼンベルグ反強磁性体においても,一部の波数領域で励起エネルギーの連続帯が現れ,マグノンのスピノンペアへの分離が起こっていることが報告されている。そこでの計算方法はフェルミオンを用いたグッツイラー変分法である。この方法をフラストレート系(球体カゴメ系や秩序を持つ三角格子系,カゴメ格子系)に適用し,マグノンのスピノンペアへの分離を系統的に調べることは興味深く,今年度はこの計算を実行できる体制を構築したい。
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Causes of Carryover |
修士課程院生が増加したため次年度は学会への参加費,旅費が大幅に増加する見通しである。「次年度使用額(B-A)」は,その費用に充当するためのものである。
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Research Products
(12 results)