2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K05547
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
辺土 正人 琉球大学, 理学部, 教授 (00345232)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ユウロピウム化合物 / 価数転移 / 重い電子状態 / 量子臨界点 / スキルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も前年に引き続きキラル構造を持つEuTX(T: 遷移金属,X: Si, Ge, P)やそれらに関連して,EuGe, EuGe2, EuCu5, EuAu5,EuMnBi2 などの新規物質の単結晶育成,基本物性測定,高圧実験を行い,特異な電子状態や磁気状態の探索の研究を推進した。 カイラル構造を持つEuPtSi は試料育成条件を最適化し,大型純良単結晶に成功した。それを用い,中性子散乱実験や共鳴X線散乱グループと共同研究を進めたことで,類似結晶構造を持つMnSiで報告されているスキルミオン相が存在するということがほぼ確定的になった。しかし,一方で EuPtSi のスキルミオン相(A相)は磁場を[110], [112] 方向へ加えると消失すること,スキルミオン半径が非常に小さい(18オングストローム)など,MnSi とは大きく異なることも明らかになっている。また,[001] 方向の周辺にだけ A相とは異なる別の磁気相(B相)が出現している可能性があり,国内の多くの研究者と共にさらに研究は進展している。加えて,ドハース・ファンアルフェン効果測定から,結晶構造の反転対称性の破れを反映した大きなフェルミ面の分裂を明らかにした。 正方晶反強磁性体 EuCu2Ge2 の高圧下電気抵抗測定から約7 GPa で反強磁性が消失する磁気臨界点が消失することを見出したが,さらにその臨界点付近を詳細な圧力依存,極低温まで測定したところ,1次転移的に急速に磁気転移温度が抑制され,6.5 GPa で磁気臨界点に達することが分かった。また臨界点周辺を 20 mK 程度の極低温まで測定したが,新たな相転移は観測できなかった。 他,EuGe, EuGe2, EuCu5, EuAu5 など新規の物質探索を試み,純良な単結晶育成に成功した。それぞれに奇妙な磁気相を持っていることがわかり,研究が続いている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高圧下で磁気臨界点を迎える物質探索は,多くの進展があった。前年度に見出した EuCu2Ge2 を精密な圧力制御と極低温までの測定により,詳細が明らかになってきた。反強磁性転移が,1次転移的な鋭い変化により磁気臨界点へ移行していて,Ce系化合物によく見られていた磁気揺らぎによるものだけでなく,大きな価数揺らぎとが競合しているような振る舞いをしている。現在,理論的なことも含めて,研究は続いている。臨界点付近の極低温で Ce化合物で見られるような超伝導の期待をしたが,EuCu2Ge2 では発見することができなかった。他に EuGe2 の圧力効果測定から,7 GPa 付近で反強磁性転移温度が最大になり,8 GPa では転移温度が減少した。さらに高圧下で磁気臨界点を迎える可能性があることが分かった。EuAu5 では,二つの磁気転移を確認し,特に低温側の 13.5 K での強磁性転移が1次転移的な振る舞いを示すことが初めて確認できた。 EuTX では,EuPtSi にスキルミオン相があることがほぼ確定的になり,初めての希土類物質でのスキルミオン相の発見として,大きな話題になった。今後も大きく発展する研究と期待される。EuPtSi と同じ結晶構造をもつEuPtGeでは,EuPtSi より反強磁性転移温度が低く,3.0 Kの反強磁性体であることが分かってきた。しかし,何度か繰り返し育成を試みているが,EuPtSiに比べると良質で大きな単結晶は得られていない。しかし,1mm角くらいの単結晶での実験から,H || [111]では 1 Kで 12 kOe と 20 kOeで磁化曲線にわずかなメタ磁性転移が現れ,対応するホール抵抗にもこの磁場領域でピーク構造が現れた。このホール抵抗のピーク構造は2 K付近から0.7 Kまで見出され、EuPtSiのスカーミオンを示す A相と類似していることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,高圧下実験が重要な役割を果たしている。昨今のヘリウムの供給の危機的状況から,共同研究による高圧実験ではなく,ヘリウム液化施設のある自前の実験装置で行うことが急務となっている。昨年度からの課題は現状も克服できておらず,安定した加圧,圧力媒体技術獲得のためには,安定した実験が達成できるまで熟練者のところに通い,アドバイスを請う必要があると考えている。研究協力者の 大学院生とともに早期に10 GPa 程度は発生したい考えている。特に,EuGe2 の 8 GPa以上の高圧実験に期待している。他にも複雑の磁気相を持つことが分かった EuGe や価数転移点近傍の物質と期待される EuCu5や特異な磁性を示す EuAu5 など高圧下の振る舞いは興味深い。10 GPa 程度の圧力まで電気抵抗の圧力効果測定を行い,新しい圧力誘起の価数転移や磁気臨界点を持つような新規のユウロピウム化合物を探索する。 キラル構造を持つ EuTX 関連では,EuPtGe の純良化は今後も続けていく。また,育成に成功していない EuIrP も,新たな出発物質を育成して単結晶育成を試みる。EuPtSi は国内の研究者へ単結晶試料を提供し,共同研究を進める予定である。 最終年度として,研究成果を精力的に発信する予定にしている。
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Causes of Carryover |
本年度の計画で考えていた高圧容器の開発の部分が予定より遅れており,高圧実験用の消耗品の購入分に余剰が発生している。次年度は今年度分を含んだ計画を実施し,目標とする安定的高圧発生技術の習得と Eu化合物の高圧実験を行う予定である。また,最終年度として,国内・国際会議等で研究成果を公表するために,旅費としての活用を計画している。
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[Presentation] カイラル磁性体EuPtSiのEu-151メスバウアー分光 (II)2019
Author(s)
本間佳哉, 垣花将司, 徳永陽, 與儀護, 中島美帆, 仲村愛, 清水悠晴, 李徳新, Arvind Maurya, 佐藤芳樹, 本多史憲, 青木大, 天児寧, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
Organizer
日本物理学会 第74回年次大会
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[Presentation] カイラル反強磁性体EuPtSiの低温物性2019
Author(s)
竹内徹也, 垣花将司, 太田譲二, 青木大, 仲村愛, 本多史憲, 中島美帆, 天児寧, 播磨尚朝, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
Organizer
日本物理学会 第74回年次大会
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[Presentation] 反強磁性体EuGe2とEuGeの磁性2019
Author(s)
松田進弥, 伊覇航, 本多史憲, 郷地順, 上床美也, 芳賀芳範, 中島美帆, 天児寧, 竹内徹也, 木田孝則, 萩原政幸, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
Organizer
日本物理学会 第74回年次大会
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[Presentation] キラル反強磁性体EuPtSiの中性子散乱2019
Author(s)
金子耕士, M. D. Frontzek, 松田雅昌, 中尾朗子, 宗像孝司, 大原高志, 垣花将司, 芳賀芳範, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
Organizer
日本物理学会 第74回年次大会
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[Presentation] ラッシュバ型の反強磁性体EuNiGe3の特異な磁気相2019
Author(s)
伊覇航, 松田進弥, 垣花将司, 仲村愛, 青木大, 中島美帆, 天児寧, 竹内徹也, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
Organizer
日本物理学会 第74回年次大会
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[Presentation] カイラル磁性体EuPtSiのEu-151メスバウアー分光2018
Author(s)
本間佳哉, 垣花将司, 徳永陽, 與儀護, 仲村愛, 清水悠晴, 李徳新, Arvind Maurya, 佐藤芳樹, 本多史憲, 青木大, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
Organizer
日本物理学会2018年秋季大会
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[Presentation] EuT2Ge2とEuT2Si2(T:遷移金属)の特異な電子状態II2018
Author(s)
大貫惇睦, 伊覇航, 松田進弥, 垣花将司, 安次富洋介, 竹内徹也, 本多史憲, 仲村愛, 青木大, 中島美帆, 天児寧, 芳賀芳範, 郷地順, 上床美也, 辺土正人, 仲間隆男
Organizer
日本物理学会2018年秋季大会
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[Presentation] EuSnPのドハース・ファンアルフェン効果と磁性2018
Author(s)
覇航, 松田進弥, 本多史憲, 竹内徹也, 中島美帆, 天児寧, 郷地順, 上床美也, 播磨尚朝, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
Organizer
日本物理学会2018年秋季大会
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[Presentation] 単結晶EuCu2Si2のスピングラス的振る舞い2018
Author(s)
竹内徹也, 谷口年史, 芳賀芳範, 中島美帆, 天児寧, 田原大夢, 木田孝則, 萩原政幸, 安次富洋介, 屋良朝之, 伊覇航, 辺土正人, 仲間隆男, 大貫惇睦
Organizer
日本物理学会2018年秋季大会