2018 Fiscal Year Research-status Report
重い電子系をベースとした熱電材料開発における新しい方法論の創出
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17K05552
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Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
松波 雅治 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30415301)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 重い電子系 / 熱電材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,重い電子系の研究において停滞していた熱電変換材料への応用研究に新しく挑戦するものである. 本年度は典型的な重い電子系であるCePd3の熱電特性における元素置換効果について調べた.CePd3は比較的良い金属にも関わらず非常に高いゼーベック係数を示すことが知られており,次世代の熱電材料の候補として期待されている.しかしながらCePd3が高いゼーベック係数を示す詳しいメカニズムは明らかにされておらず,またその熱電特性を向上させるための指針も得られていない.この問題を解決するために,本研究ではCePd3におけるCeサイトの一部を磁性イオンであるYbとその非磁性参照系であるLuで置換した試料を作製し,その熱電特性を比較した.試料は全てアーク溶解法によって作製し,全ての試料で単相多結晶が得られたことを確認した.これらの系におけるゼーベック係数と電気抵抗を詳しく調べた結果,CePd3におけるCeサイトをYbとLuによって置換していくことで熱電特性が急激に抑制されることがわかった.この結果は,CePd3の熱電特性に対しては化学圧力効果や単サイトの近藤効果はほとんど寄与せず,Ceイオンのサイト間効果が最も重要な役割を果たしていることを示唆している. また,本研究課題のもう一つの柱である「重い電子系のエピタキシャル薄膜の開発とそれを用いた熱電特性の向上」を目指して,YbIn3薄膜の作製に着手した.特に分子線エピタキシー(MBE)装置の高度化を進めることで,より効率的な薄膜作製が可能となる環境を整備した.現在,YbIn3の多結晶膜の作製に成功しており,さらに成膜条件を最適化することによりエピタキシャル薄膜が作製できる見込みである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,Ce系の熱電材料候補物質CePd3においてCeサイトをYbとLuに置換した試料の作製に成功した.これらの熱電特性を詳しく調べることにより,CePd3における高い熱電特性に対しては,化学圧力効果や単サイトの近藤効果はほとんど影響せず,Ceイオンのサイト間効果が最も重要な役割を果たしているという重要な知見が得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度まで開発を進めてきた重い電子系のバルク試料については,作製が完了した試料から順次光電子分光測定を進める.これにより重い電子系の熱電特性を決定している電子構造を詳しく知ることができる. これと並行して本研究課題の最終年度である次年度はエピタキシャル薄膜・超格子の研究を強力に推進する予定である.現在そのエピタキシャル薄膜の作製に一定の目処が立っているYbIn3に関しては,それ自体に高い熱電特性は期待されていないが,この成膜ノウハウを他の高い熱電特性を示す系へと応用すること,さらにそれらの薄膜を用いたその場角度分解光電子分光(in situ ARPES)によって詳しい電子構造研究を行うことも可能となる.その後,重い電子系の人工超格子の作製に取り掛かる.この人工超格子の作製は,重い電子状態を2次元に閉じ込めるという意義があり,それによって電子状態に顕著な変化が生じることでゼーベック係数を飛躍的に増大させる可能性も秘めており,これが本研究においても実現すれば新しいブレイクスルーにつながる.本研究ではこの閉じ込められた重い電子状態を再度in situ ARPESによって直接観測することも計画している. 以上の研究計画に沿って進めていくことで,独創的かつ重要な重い電子系の熱電研究を広く展開できると考えている.
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Research Products
(1 results)