2017 Fiscal Year Research-status Report
ナノ多孔質系における加速イオンダイナミクスの分子動力学
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17K05570
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
巾崎 潤子 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (10133331)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 分子動力学 / 多孔質 / イオニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
多孔質の系を含む複合系などにおいてイオンの加速ダイナムクスがあることが実験的に報告されているが、その機構については起源の異なる多くの説があり、明確でない。そこで、ケイ酸リチウムガラスに空孔を導入した系におけるリチウムイオンのダイナミクスを分子動力学シミュレーションによって調べ、加速機構について検討した。 体積一定の条件下で系統的に空孔を導入した複数の系で系の密度を調べて空孔率との関係を確立したうえで、密度の関数としてLiイオンの拡散係数を調べ、拡散係数に極大が生じることを予測した。また、拡散係数の温度依存性を調べてアレニウスプロットをしたところ、実験的に知られているような傾きの減少がみられた。 この機構を明らかにするために、まず、イオンの軌跡を調べた。複合系ではイオンの加速を粒子表面などの境界領域で起こることを仮定している場合が多いが、本系での加速は空孔の境界ではなく、イオンが多い領域で起きている。また、周囲の酸素やケイ素の運動も活発になっていることが分かった。これはイオンを囲むケージが緩くなっていることを示唆している。そこで、Liイオン周囲の酸素の配位数の分布や幾何学的な自由度を調べたところ、これと合致する結果が得られた。また、イオンの平均二乗変位の時間依存性を調べたところ、ケージングに対応する短時間領域から加速が始まっていることが分かった。つまり、ケージ構造が緩和しジャンプの頻度が増すことで加速が起きている。さらに圧力一定の条件下での挙動や、またジャンプ経路の変化がどう影響するかについても検討している。 多孔質複合系では組成に対して輸送係数をプロットしたときに極大が生じることが知られている。また輸送係数の温度依存性の特徴も本研究と類似点があるので、共通の機構があるかどうかに興味がもたれる。そこで、いくつかの複合系のモデルを準備して予備計算、および大きな系の平衡化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多孔質のイオンダイナミクスについての分子動力学シミュレーションを実現し、加速を予測する結果を得た。エネルギー一定の条件下で系への空孔導入の効果については、加速機構を明確にすることができた。複数の可能性を分離して、原因を明らかにできたことは大きな成果であり、この方法論は他の系にも適用が可能である。これらの結果に関してはすでにこの分野の主要な国際誌に掲載され、国際会議の招待講演を複数回行うなどの啓蒙活動を行っている。また2017にイオニクスに関する洋書を出版することができたが、この中にも結果の一部を盛り込むことができた。なお、この本に関しては、平成29年度の手島記念研究賞(著述賞)を共著者とともに受賞した。さらにこの本を通して国際工学教育に貢献したということで、平成29年度の工学教育賞の受賞が決まった。 このように、当初の目標は体積とエネルギー一定条件下での一つの系に関しては成功したと思う。しかし、この時に、系の圧力変化がかなり大きく、低圧条件では圧力による緩和現象が重なることが明らかになってきておりこれらについてもさらに検討する必要がある。また、複合系など、より加速が報告されている実験の条件に近づけた場合についても計算の準備を進めているが、これに関しては系のサイズが大きく、多大な計算時間がかかるため、思い通りにはなかなか進捗しない。平均するとおおむね順調に進展しているといえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
実験で知られている複合系におけるイオンの加速ともかなり似た特徴のあるダイナミクスがこの系でも見られたことは興味深く、今後もこの系について詳細な検討を行う必要が生じた。特に、この系で動的不均一性が空孔の導入によりどのように変化するかなどは、重要な未解決問題であるガラス転移の機構とも関係しているので、これを念頭に置いた解析を進めていく。 具体的には、平均二乗変位の多段階挙動のどこでダイナミクスの変化が起こるかをより詳細に系の動的不均一性を含めて解析していく。 一方で、より実験の条件に近づけた条件下では、複数の系の研究を同時進行している。平衡化などの準備のできた系からより具体的な解析をする予定である。これに関しては、エネルギー一定の方法で可能な機構を分離して評価したときの手法が有効であると思われるので、これを活用していく。また、分子動力学についての新しい本を執筆中であるので、これにも結果を盛り込んでいきたいと考えている。
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