2017 Fiscal Year Research-status Report
Fluctuations of information, heat and charge currents
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17K05575
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
内海 裕洋 三重大学, 工学研究科, 准教授 (10415094)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 物性理論 / メゾスコピック系 / 非平衡量子輸送 / 量子エンタングルメント / 量子ドット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、メゾスコピック量子導体を対象に、エンタングルメント・エントロピー(情報エントロピー)と電流と熱流(熱力学的エントロピー)の相関を調べ、測定が困難なエンタングルメントエントロピーを、電流または熱流の測定値から評価する方法を見出すことである。最終的には「揺らぎの定理」を取り入れた形に拡張することをめざす。H29年度研究計画は、電流揺らぎ・熱流揺らぎ・情報エントロピー流の揺らぎの関係を明らかにすることである。今まで、電流と情報エントロピー流の同時確率分布を計算する手法を構築し、情報伝送の効率(情報エントロピー流と電流の比)の揺らぎの分布関数の計算をおこなった。主な結果は以下である。 1)相互作用を無視でき、透過率のエネルギー依存性も無視できる理想的な状況においては、電流の揺らぎと、情報エントロピー流の揺らぎは一対一に対応することを示した。これは、電流の確率分布が求まれば、情報エントロピー流の確率分布が求まることを意味する。ただし、この一対一対応は、透過確率がエネルギーに依存する場合は失われる。 2) 情報伝送の効率の確率分布を計算した結果、揺らぎが非常に大きいことがわかった。とくに、透過する電子数の期待値が0に近づくにつれて、一つの電子が運ぶ情報量の期待値は発散し、その揺らぎも増大する。これは揺らぎによって、透過電子数が極めて小さくなる場合があり、その場合は一つの電子が運ぶ情報量が増強されるからである。これは一つの電子が運ぶことのできる情報量の大きさと、その値の正確さのトレードオフとみなすことが出来る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度研究計画は、A)電流揺らぎ・熱流揺らぎ・情報流揺らぎの関係を明らかにすることであり、具体的には、 (A-1) 電子数と部分系の自己情報量の同時確率分布の計算、および(A-2) 情報伝送の効率の分布の計算、を遂行することである。順調に進んでおり、【研究実績の概要】に述べた成果は論文[Yasuhiro Utsumi:"Full counting statistics of information content and particle number"Phys. Rev. B 96, 085304 (2017)]にまとめた。 H30年度以降に計画している熱流揺らぎの研究への取り組みも開始しており、プレリミナリな結果を得て、学会で報告している。現在まで、「2つの分布がどのぐらい近いか?」を測る,相対エントロピーの揺らぎの分布を計算し、報告した(内海裕洋「情報流および熱流揺らぎの透過率依存性」日本物理学会 2017年秋季大会 岩手大学(上田キャンパス)2017年9月)。しかし、期待に反して、相対エントロピーの揺らぎ分布からエンタングルメント・エントロピーに関する有益な情報を得る方法は単純ではないことが分かってきた。そのため、H30年以降も続けて取り組む必要がある。 その一方で、一旦エンタングルメントを離れ、情報エントロピー流の揺らぎの分布を、熱雑音が信号として送信機から送られた場合に、受信機で受け取る情報量の分布とみなして、得られた結果を解釈し直す試みも行った。その結果、量子力学が与える通信容量の限界値と、エンタングルメントハミルトニアンの固有値の数の間に密接な関係があることを見出すことができた(内海裕洋「量子ドットの熱流と通信路容量の上限」日本物理学会 第73回年次大会 東京理科大 野田キャンパス 2018年3月)。以上の理由から、おおむね順調に進んでいると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】で述べた、H29年度研究計画「(A-2) 情報伝送の効率の分布の計算」について、論文では電子を対象にした。揺らぐ効率の分布というアイデアは、非平衡統計力学分野のstochastic thermodynamicsに関連して最近議論されている、微小な熱機関の効率の揺らぎの考え方を適用したものである。H29年度の研究を通じて、過去に、量子光学の分野で、電磁場について一つのボーズ粒子が運ぶ情報量が議論されていたことに気がついた。しかし、その揺らぎの分布については議論されていない。H30年度は、H29年度の結果をボーズ粒子系に適用し、一つの信号量子が運ぶ情報量の分布をもとめ、過去の研究を拡張する計画である。また、H29年度に構築した理論はフェルミ粒子(電子)に対するものであったので、理論をボーズ粒子に拡張する必要もある。以上は、当初の研究計画に記していなかったが、研究内容を深めるために意義があると思われるので、H30年度にかけて遂行することとした。 H30年度以降の研究計画は、(A-3) 熱量と部分系の自己情報量の同時確率分布の計算である。【現在までの進捗状況】にも述べたとおり、プレリミナリな結果は学会で報告している。H30年度は一旦エンタングルメントを離れ、いままで構築した理論を用いて、量子力学が与える通信容量の限界値の研究を優先して行う計画である。それと並行して、相対エントロピーの揺らぎの分布の意味の理解をより詳細に検討する計画である。
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Causes of Carryover |
(理由) 共同研究者との議論の機会を、別に得る見通しとなったこと(平成30年度初めの海外出張時)から、当初予定した共同研究者訪問(Aalto大)を本年度は行わず、メールやインターネット電話でのやり取りとした。このことによる研究計画の遂行に影響はない。(使用計画) 平成30年度に行う海外出張旅費に使用する予定である。
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Research Products
(11 results)