2018 Fiscal Year Research-status Report
テンソルネットワークを用いた非平衡定常系の数値的研究
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17K05576
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
原田 健自 京都大学, 情報学研究科, 助教 (80303882)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | レニーエントロピー / 吸収状態 / 有向浸透現象 / 行列積状態 / 非対称テンソル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、有向浸透現象モデルを中心にした研究を行なった。1つは有向浸透現象モデルにおける情報論的エントロピーに関するものである。前年度に行なったテンソルネットワーク法の計算精度に関する研究成果を活用し、マスター方程式に基づく状態確率分布の時間発展を精度よく長時間計算することで、従来法では困難であったレニーエントロピーの時間発展の定量的評価を行なうことに成功した。レニーエントロピーは一般化されたシャノンエントロピーの1種であり、シャノンエントロピーと同様に状態確率分布の構造を反映することが予想されたが、具体的には、有向浸透現象のレニーエントロピーにおいて、吸収相転移の臨界点での新しい普遍的べき的緩和、および、活性化相における新たな特異点の存在を発見した。さらに、これらは共に、有向浸透現象の特徴である吸収状態の存在に支配されるものであることを、吸収状態の出現確率に関する仮定を元に定性的に説明し、テンソルネットワーク法の計算結果より定量的にも示すことに成功した。 前年度の研究成果を踏まえて、(1+1)次元有向浸透現象のテンソルネットワーク法では状態確率分布をカノニカルフォームを用いた有限長の行列積状態で近似したが、熱力学的極限の性質を直接的に評価するために、無限系におけるテンソルネットワーク法の計算精度についても研究を進めた。その結果、非対称テンソルに対する射影演算が精度に影響を及ぼすことがわかった。この結果は時間発展系に対するテンソル繰り込み群の開発に多くの影響を与える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通り、前年度のテンソルネットワーク法の研究成果を踏まえて、カノニカルフォーム行列積状態を用いたテンソルネットワーク法を使って、有向浸透現象について従来法で困難であったレニーエントロピーの評価を行うことができた。その結果に基づき、吸収状態に支配されるレニーエントロピーをもつ確率過程として、有向浸透現象の新しい情報論的な特徴づけを行うことができた。テンソル繰り込み群法の非平衡系への適用は今年度も見送ったが、無限系に関するテンソルネットワーク法での射影演算の重要性を示すことができ、同様に非対称テンソルに着目したテンソル繰り込み群法の必要性を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
非平衡系の時間発展を直接的に取り扱うためのテンソル繰り込み群の開発を行う。その際に、非対称テンソルに対する射影演算の改良を行うことを検討する。そして、非平衡時間発展作用素の繰り込みを通じて、非平衡現象の新しい特徴付けを目指す。
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Causes of Carryover |
研究に必要なコード開発とアルゴリズムのテストのための機材の導入計画が遅れている。既存の設備で代用しているが、本年度の研究計画にそった適切な機材の調達を速やかに進める予定である。
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Research Products
(9 results)