2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K05579
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
石坂 智 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (10443631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
畠中 憲之 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70363009)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 量子相関限界 / ベル不等式 / 量子非局所性 / エンタングルメント |
Outline of Annual Research Achievements |
量子非局所相関の限界が、光速を超えた情報伝達を禁止する原理よりも強い原理によって制限されていることが明らかになって以降、量子相関限界を規定している基本的な物理原理を探すための研究が近年活発に行われている。ところが、最も簡単なベル不等式の設定(2者それぞれが2つの2値測定を行う設定) においてすら、量子相関限界を同定するための解析的条件は導出されておらず、このことが深刻な問題の一つとなっていた。 本年度の研究により、量子相関の凸集合の頂点(extremal point)に対応する量子相関限界を同定するための解析的条件(必要十分条件)を導出することに成功した。これは研究計画で想定していた以上の成果である。また、導出した解析的条件の妥当性を検証するために、大規模な数値計算を行った。解析的条件は、この数値的検証をことごとくパスしており、極めて妥当なものであると判断している。厳密な数学的証明には至っていないが、解析的条件の導出は数十年に渡る未解決問題であり、数値的に妥当な解析的条件を得ただけでも十二分な成果であると考えられる。 この解析的条件は、遠隔者の測定結果の最適な推測確率という情報理論的な量が、ベル不等式の破れの実験結果の統計的性質だけから「認証可能(certifiable)」になる条件と一致している。このことは、この情報理論的な量が量子相関限界に対し本質的に重要な役割を果たしていることを示しており、我々独自の着眼点の正当性が証明されたとも言える。これらの成果を論文にまとめ投稿した。 また、導出した解析的条件から、不確定性関係と量子相関との密接な関係も明らかになってきており、本年度の成果により今後の研究の方向性も明確になったと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
量子相関限界の全ての頂点(extremal point)を同定する解析的条件の導出は、30年以上に渡り未解決だった極めて難しい問題であり、その導出までは研究計画でも想定していなかった。厳密な証明には至っていないとは言え、数値的な検証をパスした妥当な解析的条件の導出に成功したことは、研究計画以上の成果である。 本年度の研究計画の「(3)非直交性を統計データのみから保障する方法の改良」において、想定していなかった解析解を得ることができたことが成果に繋がった。また、研究計画の「(1) 暗号原理を取り入れた量子限界不等式の飽和性に関する数値計算」を計画以上に推し進めることで、導出した解析的条件の数値的検証へと繋がった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果により、我々が独自に着目している「遠隔者の測定結果の最適な推測確率」という情報理論的な量が、量子相関限界に対し本質的に重要な役割を果たしていることが証明された。今後は、この考え方を3者間の量子相関限界に対して適用し、多者間の量子相関の性質の解明を行う。 また、不確定性を2者間の非局所的ゲームとして捉えることで情報理論的に解明しようとする研究が近年活発に行われているが、上記の「遠隔者の測定結果の最適な推測確率」は、この非局所的ゲームの勝率そのものでもある。本年度の研究成果は、この推測確率とエンタングルメントとの間の関係式が、量子相関限界の決定に重要な役割を果たしていることを示唆している。すなわち、この関係式が不確定性と量子相関とを繋ぐ鍵である。今後の研究により、この重要な関係式を高次元の量子状態や混合状態に対して拡張する。
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