2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K05587
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
齊藤 圭司 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (90312983)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 非平衡熱力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の研究実績は主に2つある。1つ目は時間反転対称性が破れた、低次元熱輸送系での熱伝導現象の研究についてである。カーボンナノチューブや高分子錯、またグラフェンなどの低次元物質では、熱伝導係数が系のサイズとともに発散してしまうという、異常熱輸送現象が知られており、理論物理や数理物理また、実験の研究に到るまで幅広い範囲で学際的な研究がなされている。高分子などを考えると一般には電荷を帯びていても良いことから、その効果が現れる熱伝導現象として何があるかを探りたい。我々は、磁場下にある熱伝導現象として特徴的な現象があるかどうかを探った。熱伝導係数の発散の様子は、一般に非線形ばねでモデル化して大規模計算をすることが多い。しかしながら、大規模計算でも発散係数のべきを正確に知ることは極めて困難である。そこで我々は厳密に解けるモデルを提案し、磁場が有る無しでどのように変わるかを探った。その結果、磁場があることによって現れ得る新しい発散係数を発見した。
2つ目の実績は、熱力学的不確定性と言われる現象に関する研究である。一般に流れがあるとき、その流れはゆらぎをともなう。そのゆらぎを抑えるにはどれくらいのエントロピーが必要であろうか?確率過程の範囲で、ゆらぎの度合いとエントロピー生成率の間にはトレードオフ関係があるということが数学的に厳密に分かっており、その現象は熱力学的不確定性と呼ばれている。我々は、その現象が、どのようなダイナミクスの範囲で頑強に成立するかを考えた。より一般的にかつ厳密に調べるために、ゆらぎや平均の流れが厳密に調べられる多端子電気伝導系を考えた。その結果、古典的伝導の範囲では時間反転対称性が守られているときは成立するが、磁場が入って時間反転対称性が破られていたり、量子系になると一般に破れ、補正が必要になることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、研究はおおむね順調であると言ってよいと思う。「研究実績の概要」で示した結果はともに、Physical Review Letters 誌に掲載されており、国内外ともに評価を得ている。これらの研究に対する、海外からの招待講演なども複数回ある。また、本研究資金をもとに購入した計算機をもとに、熱伝導や熱機関の数値計算なども順調に進んでいる。
当初目標にしていた研究課題は、大枠でいうと「熱輸送現象の特徴づけ」や「小さな系での熱的現象の熱力学特徴の整理」であったので、今年度の研究はこの路線で言うと、極めて順調と言えるであろうと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で述べた2017年度の研究成果をもとに、その延長線上で今後の研究もおこなっていく。まず、熱伝導現象ついては以下の通りに研究を行っていく。現在、時間反転対称性を破った系では新しい種類の熱伝導係数の発散があることが分かってきた。熱伝導度の発散があるとき、必ずエネルギー拡散にも異常があるはずである。2018年度は、時間反転対称性を破ったときに見られるエネルギー拡散の異常性を数学的に厳密に示したい。また、平衡系であっても熱流のゆらぎは存在するので、平衡系でのゆらぎの特徴を見てみたい。
熱力学的不確定性に関しては、2017年度の研究を拡張し、電気伝導現象だけでなく、熱輸送に関しても議論を行なっていく。電気伝導現象で量子系を考えるとフェルミオンの量子統計性を反映して熱力学不確定性が極端に破れることがわかってきた。このことはボゾンと捉えられる熱輸送の担い手に対しては、異なる振る舞いが見られる可能性があることを示唆している。2018年度は、この方向性で出来得る限り解析的に研究を行っていく。
また、それ以外にも確率過程における状態操作のスピードの熱力学的特徴づけなども行っていきたい。
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Causes of Carryover |
年度末に、当初使用予定であった旅費が予想よりも低価格であったため、次年度に持ち越し次年度の旅費として有効活用することに決めたため。
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Research Products
(6 results)