2017 Fiscal Year Research-status Report
Angular dependence of ionization probabilities on the angle between molecular axis and laser polarization direction
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17K05593
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 宗良 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20373350)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イオン化確率 / 角度依存性 / 高強度光 / 回転波束 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,高強度フェムト秒レーザー光による分子のイオン化確率の角度依存性を調べることが目的である。イオン化確率を実験的に決定する方法はいくつか考えられ,例えば分子配列技術を用いて空間的に分子を固定し,直線偏光を持つ光によってイオン化し,イオン収量を測定する。様々な偏光の向きに対してイオン収量を測定することによって,イオン化確率の角度依存性を知ることができる。一方で,真逆の方法,すなわち,イオン化させる光の偏光は固定しておき,分子軸を変化させてイオン収量を計測し,そこからイオン化確率の角度依存性を知ることもできる。本研究では,後者のアイデアによって実験を行うものである。直線偏光のポンプ光により電子基底状態における回転波束を生成させ、遅延時間ののちに照射する直線偏光のプローブ光によりイオン化させ,生成した親イオンの収量を延時間に対して測定する。ポンプ光によって生成した回転波束は,分子軸分布を大きく変化させながら時間発展し,プローブ光により生成したイオン収量の遅延時間依存性にはイオン化確率の角度依存性の情報が含まれることになる。 初年度は様々な分子に対してこの手法を用いてデータを収集することを目的とした。具体的にはOCS分子に対して上記の手法を用いて,OCS2+, OCS3+親イオンの収量の遅延時間依存性の測定を行った。OCS2+, OCS3+共に分子配列特有の過渡的な信号が観測されたが,OCS3+にはOCS2+には現れない回転周期の1/8の奇数倍の位置に信号が観測された。これは,OCS3+が生成するイオン化確率の角度依存性がOCS2+と比べて複雑な(高次のルジャンドル関数を含む)形状となっていることを示唆している。また,提案した手法によってイオン化確率の角度依存性が得られることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ポンプ・プローブ法によって高強度レーザー光によるイオン化確率の角度依存性を知ることが本研究の目的となっている。ポンプ光によって回転波束を生成し,分子軸分布を時間変化させ,遅延時間の後にプローブ光を照射しイオン化する。生成した親イオンの収量の遅延時間依存性から角度依存性の情報を引き出し,様々な分子の角度依存性を決定することによって,高強度光によるイオン化過程を理解することを目指す。初年度は,OCS分子を用いて実験を行った。測定したOCS2+, OCS3+親イオンの収量の遅延時間依存性には,分子配列特有の過渡的な信号が観測された。OCS分子の回転周期はTrot = 82 psであるが,OCS2+およびOCS3+の収量は,遅延時間が1/4 Trot, 1/2 Trot, 3/4 Trot, Trotの時に過渡的な信号強度の変化が現れた。さらに,OCS3+には1/8 Trot, 3/8 Trot, 5/8 Trot, 7/8 Trotにも信号が現れた。測定しているイオン種はOCS2+, OCS3+であるが,信号の変化が現れる時刻はOCSの回転周期に関連しており,測定したイオン収量の変化は,OCS分子の分子軸の変化によるものと結論できた。 また,OCS2+には現れない1/8Trotの奇数倍の時刻にOCS3+の信号が観測されたことから,OCS3+が生成するイオン化確率の角度依存性がOCS2+と比べて高次のルジャンドル関数を含む複雑な形状となっていることが示唆された。 全体的に当初計画通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は,OCS分子を用いて提案した手法によりイオン化確率の角度依存性を決定するために必要なデータを測定することができた。今後は,このデータを解析しイオン化確率の角度依存性の具体的な形状を決定したい。このために,イオン化確率の角度依存性を,ルジャンドル関数で展開し,展開係数を実験結果にあうように決定する。このためには,ある展開係数を用いてイオン化確率の角度依存性を仮定し,分子軸分布の時間発展を計算し,これらを組み合わせイオン収量の遅延時間依存性を計算し,実験結果と比較する。この計算を実験結果と一致するまで展開係数を変化させて繰り返し行う。このための計算コードの作成を本年度中に行う。 解析と並行してさらに実験も行う。初年度はOCS分子の実験を行ったが,データ評価のためにイオン化確率の角度依存性がよく分かっているN2分子での計測をリファレンスとして行う。ここで測定した結果と,過去に報告されているN2分子のイオン化確率の角度依存性を比較することによって,本手法の妥当性を評価する。 また,当初の予定通り様々な分子,具体的にはCS2,CO2を対象にして同様の実験を行い,イオン化確率の角度依存性を決定する。特にCO2に関してはイオン化確率の角度依存性が理論計算と合致しないところがあると報告がされているため,精度の高い測定を行いたい。 全体的に当初計画通り進んでおり,今後も計画通り研究を進めてゆく予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画において初年度は、信号強度を増やすために長い焦点距離(600mm)のレンズにより集光が可能な新規の飛行時間型質量分析器(TOF-MS)を作成する予定であったが、OCSをサンプルとして用い既存のTOF-MSを用いて簡易計測を行ったところ、信号強度は弱いが、ポンプ・プローブ遅延時間依存性を測定するために充分な信号が確認され、新規のTOF-MSを作成していない。しかし信号強度を増やすことでS/Nが改善されることが期待されるため、次年度使用額については、当初計画の通り焦点距離600 mmのレンズを用いることが可能になるように、現在のTOF-MSを拡張するために使用する。
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Research Products
(4 results)