2018 Fiscal Year Research-status Report
超低エネルギー電子-水素分子衝突で発現した新たな散乱現象の研究
Project/Area Number |
17K05594
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
北島 昌史 東京工業大学, 理学院, 准教授 (20291065)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 電子Cold Collision / 超低エネルギー電子ビーム / 電子衝突断面積 / 放射光 / 電子散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
超低エネルギーの電子-分子衝突では、電子の de Broglie 波長が極めて長くなるだけでなく衝突時間も分子の振動周期程度まで長くなる。このため入射電子 と核の運動が強く相互作用することで、特異的な散乱現象が期待される。本研究では、H2について、電子衝突時間が分子の振動・回転周期と近づく超低エネルギー領域の電子衝突全断面積を測定し、入射電子と核の運動が強く相互作用する、特異な散乱現象が観測できるかを確かめることを目的とした。また、H2だけでなく、水素原子の同位体からなるHD及びD2分子についても、超低エネルギー電子衝突断面積を測定し、超低エネルギーの電子-分子衝突における特異な散乱現象を探索・検証することを目的とした。 前年度に、我々のグループで開発した放射光を活用した「しきい光電子源」を用いた実験装置を改良し、高分解能・高精度化を達成しており、H2の超低エネルギー電子-分子衝突断面積およびH2の同位体であるHDについても測定することに成功している。この測定により、40meV以下の超低エネルギー領域で、HDとH2の電子衝突全断面積には大きな同位体効果があることが初めて明らかにnっている。 本年度は、D2の超低エネルギー電子衝突断面積を測定し、H2及びHDとの間の同位体効果が現れるかを調べた。この結果、D2の超低エネルギー電子衝突断面積はH2のものとほぼ一致することを明らかにした。この結果は極めて興味深いものであり、新たに多中心系の少数多体問題が大きく寄与する散乱問題を提示したことになる。 また、本年度は、水素分子の超低エネルギー電子衝突実験で得られた興味深い結果と比較するために、酸素分子の超低エネルギー電子衝突断面積の詳細な解析を行うと共に、いくつかの分子についても世界で初めて超低エネルギー電子衝突断面積を正確に得ることに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、前年度に、超低エネルギー電子-分子衝突におけるH2とHDの間の大きな同位体効果を初めて見出し、極めて重要な知見を得ている。本年度は、D2の超低エネルギー電子衝突断面積を測定し、H2及びHDとの間の同位体効果が現れるかを調べた。この結果、D2の超低エネルギー電子衝突断面積はH2のものとほぼ一致し、H2とD2の間では同位体効果が見られないことが分かった。このことは多くの示唆に富んでおり、本研究当初に予期していた「入射電子と核の運動が強く相互作用して起きる特異的な散乱現象」が観測できたものの、その現れ方は予期していたものよりも複雑なものであることを示している。すなわち、本研究の当初の目的の達成には極めて近づている。一方で、より研究を深めるには、水素分子のみならず、他の分子を標的とした研究も必要となってきた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度までに得ることができた、H2、D2 および HDについての超低エネルギー電子衝突断面積の振る舞いを、入射電子と核の運動の相互作用を無視した従来の 一般的な理論モデルと比較することで、新たな散乱現象の解明を目指す。 さらに、本年度に引き続いて、水素分子の超低エネルギー電子衝突実験で得られた興味深い結果と比較するために、いくつかの分子についての超低エネルギー電子衝突断面積の測定を行う。実験は、前年度同様、高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光実験施設において、ビームタイムの中で行う。なお、本年度は真空排気ポンプの故障が目立ってきたので、排気系の増強が必要である。
|
Causes of Carryover |
前年度に行った装置改良が当初計画以上の成果を上げたため、当初計画では装置開発と並行して開発・制作する予定であっ た電子銃について、その仕様を変更することが望ましいことが明らかになっていた。本年度は、この電子銃の再設計を行った上で製作する予定であったが、研究の進展に伴い電子銃の必要性が低下したため、その製作を再延期した。このため、次年度使用額が生じた。一方で、実験装置において最も重要な真空排気装置が故障しがちになっており、本研究を遂行するにあたり、真空装置の再整備が急がれる状況となっている。そこで、次年度の助成金と合わせて、真空装置の再整備に充てる計画である。
|
Research Products
(8 results)