2017 Fiscal Year Research-status Report
Synthesis of endohedral carbon nano-clusters by ion-multi-scattering on curved carbon thin film surfaces
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17K05602
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
本橋 健次 東洋大学, 理工学部, 教授 (50251583)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 原子内包 / カーボンクラスター / イオン表面散乱 / ペンタセン / アルゴンイオン / 円筒面チャネル |
Outline of Annual Research Achievements |
原子内包カーボンクラスターは新しい機能性材料として様々な分野で注目されているが,既存の方法では単離・精製が難しく,一般的に多段階プロセスが必要であるという課題がある。本研究は,炭素系薄膜曲面上でのイオン多重衝突により,カーボンクラスターの原子内包過程と単離・精製プロセスを同時に行う方法の原理実証を目的としている。 【1.具体的内容】29年度は,炭素原子6員環が5つ直列した分子であるペンタセンを蒸着したガラスの円筒面チャネルを用いた。円筒面チャネルは曲率半径156mmの光学用凸レンズと凹レンズを1.2mmの隙間を挟んで対向した構造で,その円筒面上に膜厚75nmのペンタセンを蒸着した。そして,円筒面チャネル前面に開けた直径1.5mmの穴から3価のアルゴンイオンビームを入射した。このアルゴンイオンが円筒面チャネル内壁のペンタセン分子と多重衝突することによりアルゴン内包炭素クラスターが生成されることを期待し,出射したイオンの質量分析を行った。その結果,極めて微量ながら比電荷(原子質量単位で表した質量をイオンの価数で除した量)が40から400程度の分子イオンの存在を確認した。この分子イオンがアルゴン原子を内包しているかどうかはまだ分からないが,何らかのアルゴン含有炭素クラスターの生成が示唆された。さらに,30年度以降に計画している基板堆積実験に向け,29年度に購入したコールドカソードイオン銃の立上げを行い,アルゴンイオンの高強度ビーム引出し実験を行った。 【2.意義】カーボン系薄膜曲面と単原子イオンとの多重衝突により生成された複合粒子を確認したことは「原子内包カーボンクラスターの生成と単離の同時実現」へ向けた大きな成果として意義づけられる。 【3.重要性】新しい原子内包カーボンクラスター生成法の原理実証のための第一段階をクリアしたことは本研究課題にとって極めて重要な意味がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の通り,重要な実験的基盤技術を確立し,カーボンクラスターの生成を確認したため,本研究は当初の計画に対して概ね順調に進展していると言える。 【1.当初の計画】 上半期は新規購入予定のコールドカソードイオン銃を発注し,8月頃の納品後直ちに既存の電子衝撃型イオン源のビームラインに併設する。イオン銃納品までの期間を利用し,ペンタセンとフラーレンの真空蒸着,および,グラフェン(分散液)の転写により三種類のカーボン膜を成膜する。さらに,質量分析用永久磁石を真空槽内に設置し,下半期の実験のためのセットアップを完了させる。その他,平成30年度以降に実施する基板へのカーボンクラスター堆積実験に備え,イオン軌道シミュレーション(SIMION8.1)を用いた基板支持・減速電極の設計も進める。下半期はペンタセン,フラーレン,グラフェンを成膜した円筒曲面間チャネルにアルゴンイオンビームを入射し,クラスター生成確率の衝突エネルギー依存性の測定(Ⅰ)を行う。 【2.現在の進捗状況】 上半期はコールドカソードイオン銃の発注と納品が滞りなく実現した。円筒面チャネルへのペンタセン膜の蒸着も行ったが,フラーレンとグラフェンの成膜は実現できなかった。グラフェンは膜厚が薄過ぎてイオン散乱が起こりにくいと判断されるため,今後はグラファイトに置き換える予定である。下半期はペンタセン膜へのアルゴンイオンビーム入射実験を行い,出射粒子のその場質量分析に成功すると共にカーボンクラスターの生成を確認した。一方,実験により,クラスター生成確率は衝突エネルギーよりも入射角に強く依存することが分かったため,円筒面チャネルのチルト角を変えて質量分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
電子衝撃型イオン源を用いた「その場質量分析」の実験技術は既に確立し,カーボンクラスターの生成を確認できたので,今後は,ペンタセン以外のフラーレンやグラファイト表面による実験を行う。また,実験上重要なもう一つの技術である「出射粒子の基板堆積」技術を確立し,堆積膜の原子構造分析を行う。基板堆積では29年度に立ち上げたコールドカソードイオン銃からの高強度アルゴンイオンビームの引出しが必要である。そのため,コールドカソードイオン銃の安定な運転のための条件を抽出する必要がある。
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Causes of Carryover |
年度末近くに開催される関東近郊の学会に参加するための近距離出張費用を確保していたが,所属機関の校務のため参加を取りやめたことにより残額が発生した。これは次年度の物品費として使用する予定である。
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