2017 Fiscal Year Research-status Report
Motion, interaction, and hydrodynamic description of active soft materials
Project/Area Number |
17K05605
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
義永 那津人 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (90548835)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アクティブマター / 生物物理 / 細胞運動 / ソフトマター / 非線形ダイナミックス / 非平衡物理 / 流体力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、自発運動の中でも、周囲の流体の運動を伴うものに注目し理論的研究を行ってきた。各粒子が周囲の流体を駆動するsquirmerや、非等方な化学反応によって自発的に粒子周辺に温度や濃度の勾配を作ることによって運動する自己泳動現象に注目してきている。前者は、例えば微生物の集団などの数理モデルとして知られており、後者はヤヌス粒子の運動のモデルになっている。これらのモデルでは、長距離力であり、多体相互作用であり、さらに、近距離で発散を伴う、流体力学的相互作用を考慮する必要がある。そのため、流体中で粒子が運動する懸濁液のダイナミックスの理論的な解析は、数値計算であっても非常に困難である。我々は、流体相互作用の近距離で生じる大きな力に注目し、系統的にこの相互作用を近似的に計算することによって、近距離相互作用がsquirmerの集団配向に重要な役割を果たすことを明らかにした。また、近距離の流体相互作用のみを取り入れた簡略化モデルを提案し、排除体積相互作用が重要であることを明らかにした。さらに、二流体モデルを用いて、一様配向状態の実現が、流体の遮蔽効果によって生じることを連続体モデルの立場から議論した。本結果の速報はPhysical Review E誌に掲載されており、詳細は別論文として投稿中である。 また、千葉大学の北畑裕之氏と共同で、化学反応によって生じるマランゴニ効果で自己駆動される樟脳粒子の周りの化学物質の場の拡散係数が、流体の流れ場によって元の拡散係数よりも非常に大きくなることを理論的な計算によって示し、数値計算によってその正当性を確認した。この結果は、これまで実験と理論との定量的な比較において不自然に大きな拡散係数が必要であったことの理由がマランゴニ効果による流れ場であることを示唆している。本研究結果はJournal of Chemical Physics誌に掲載済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、アクティブブラウン粒子、squimer、自己泳動運動、そしてマランゴニ効果による自発運動についてのモデルについてまとめた総説をJournal of Physical Society Japan誌に執筆し、また、本の1章にも執筆したものが出版予定である。これらの過程により、アクティブマターの現状を広い読者に伝えることができたと同時に、アクティブマターの理論の現状を整理することができた。流体力学的効果を取り入れた自己駆動粒子の集団運動の理解は、以前と比べると大幅に進展したが、まだ未解明な点が多く残っている。例えば、squimerが大域的な整列状態を作り出すのかは大きな議論があったが、我々の手法によって、非常に大きなシステムにおいてもこの状態は存在することが明らかになった。我々の結果は、流体力学的効果の長距離性や多体効果よりも、近距離の相互作用と排除体積の効果が重要であることを示しているが、この点もより簡潔に理解することが必要があると考えている。現状では、希薄領域で動力学を用いて近似的に計算した連続体記述や、対称性と保存則を考慮した現象論的な記述はある程度できており、我々は二流体モデルを用いて、上記の大域的な整列の存在を議論した。ここからさらに進んで、高密度な領域での連続体記述の導出のためには、外場への応答を明らかにする必要がある。アクティブマターにおけるこのようなレオロジー的な観点は今まであまり議論されてこなかったが、ここに注目していく必要がある。 また、実験との連携として、微小管を分子モーターで駆動したmotility assayと呼ばれるシステムでの微小管の集団的な整列や一方向への回転について、数理モデルを構築し、数値計算によって実験結果と一致する結果を得ている。この結果はSoft Matter誌に掲載予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、我々の流体力学相互作用を取り入れた自己駆動粒子の計算手法の応用について研究を進める。現在の表式は非常に複雑な形になっているのでこれを簡潔にし、数値計算との詳細な比較をすることで我々の手法の正当性を定量化していく。このことにより、他の様々な研究者に利用されることが可能になると期待している。特に、ヤヌス粒子の自己泳動現象の集団運動への応用に注目していきたい。これは、最近実験による実装が可能になっているシステムであり、いくつかの実験結果が出始めている。ヤヌス粒子は基盤近傍を運動するのだが、基盤との相互作用をコントロールすることで粒子の運動をコントロールすることができ、粒子輸送などへの応用が期待されている。このシステムに我々の手法を適用することが可能であると考えており、特に粒子の集団運動のコントロールの理解を進めていくことができると考えている。粒子間の流体相互作用と濃度場の相互作用を遠距離と近距離で計算する必要があり、また粒子と基盤との相互作用についても理解する必要があるが、これらは現在の我々の知識とその延長で対応可能である。また、他の自己駆動粒子のモデルとは異なり、自己泳動のモデルは力学的な構造が明確であるので、外場などを明確に定義することができる。そのため、アクティブマターにおけるゆらぎと応答の関係について解析することができるのではないかと考えている。これは、平衡に近い系におけるレオロジーのような理解をアクティブマターに導入することを意味しており、このことを機に自己駆動粒子の集団における連続体力学的な理解が深まるのではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度に予定していた海外渡航を次年度にまわし、本年度は計算環境を充実してデータの解析を中心に行うことが研究の進展によいと判断したため、その分計画との差が生じた。
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