2017 Fiscal Year Research-status Report
Experimental examination for contributiions from the protein flluctuations with large amplitude and low frequencies to cooperativity of human hemoglobin
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17K05606
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
長友 重紀 筑波大学, 数理物質系, 講師 (80373190)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北川 禎三 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 特任教授 (40029955)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ヘモグロビン / 協同性 / Fe-His結合 / heterogeneity / 酸素親和性 / αサブユニット / 四量体 / 揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,ヘモグロビンの酸素親和性の高低がヘモグロビン分子の主鎖のゆらぎの振幅の大きさと相関があるのかについて実験的に検証することにある.分子動力学による計算結果からそのゆらぎの振動はGHzから数十THzと予想されているので5 - 50 cm-1(0.15 - 1.5 THz)の範囲のテラヘルツ時間領域分光法(TDS-THz)による測定を実施した.その結果,現時点では5 - 50 cm-1(0.15 - 1.5 THz)の範囲では酸素親和性の高低(最大の酸素親和性差は1000倍)に対応する吸光度差を観測できなかった.さらには,水よりも比誘電率の小さいグリセリン(水の約0.6倍)が80%存在するヘモグロビン溶液を用いて酸素親和性の高低に対応する試料を調製して測定を行ったが,有意な吸光度差はみられなかった.そのため,さらに低波数域を測定するためにベクトルネットワークアナライザーを用いた系の構築を進めつつある. 一方でヘモグロビンのαサブユニット(α鎖)のFe-His振動のheterogeneity(ヘテロ性:ここでは2つの振動バンドの存在のことを意味する)はヘモグロビンのT, R四次構造のうちT構造の時に出現し,その2つのバンドの波数は,酸素親和性とは相関がないことが明らかになった.意外なことではあるが,αサブユニットの酸素親和性の差異はT構造においてヘテロ性が観測されるαサブユニットのFe-His結合(ヘム鉄と近位ヒスチジン結合)の強さ(波数の違い)ではなく,βサブユニットの三次構造の違いによってもたらされていることが示唆された.この内容は2017年10月にアメリカ化学会のBiochemistry誌に受理された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題であるヘモグロビンの主鎖のゆらぎの測定については外部から溶液を交換できるセルを用いたテラヘルツ時間領域分光法(TDS-THz)により,アーティファクトの入らない測定系を構築し,酸素親和性の異なる試料,さらにはα鎖のみに酸素が結合できる天然の変異ヘモグロビンであるHb M Milwaukeeを用いて実験を行った.その結果,5 - 50 cm-1(0.15 - 1.5 THz)の範囲では酸素親和性の高低に対応する吸光度差を観測できなかった. 一方,αサブユニットのFe-His振動バンドのheterogeneity(ヘテロ性)に関して,βサブユニットには酸素を結合することのできないFe3+の変異ヘモグロビンを用いてαFe2+βFe3+のヘムをもつ試料を用いて,αサブユニットの酸素親和性と2つのFe-His振動バンドの波数の相関を調べたところ,四次構造がT構造の時には酸素親和性の変化に応じた2つのFe-His振動バンドの波数の変化がみられなかった.なお,R構造になると2つのFe-His振動バンドよりもさらに高波数域にFe-His振動バンドが観測されたが,これは四次構造がR構造に変化したことによるもので過去に報告された内容と一致した.そのため,αサブユニットの酸素親和性の制御は(私が以前に発表したβ鎖のヘムとF-ヘリックス間の共有結合のない変異変異ヘモグロビンにおいてはαサブユニットの酸素親和性が上昇したという結果;S. Nagatomo, et al., PLoS ONE 10(8), e0135080 (2015)を踏まえると)βサブユニットの三次構造変化によってもたらされていることが示唆された.このことについてもっと詳細に検討していく予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
現在のところ,5 - 50 cm-1(0.15 - 1.5 THz)の範囲では酸素親和性の高低に対応する吸光度差を観測できなかったことから,今後はさらに低波数域の数十から数百GHz領域の領域の測定を可能にするベクトルネットワークアナライザーを用いた測定系を構築して,さらに低振動数(低波数)域の振動における主鎖のゆらぎの振幅の大きさが酸素親和性に関連しているかどうかを検証する.ベクトルネットワークアナライザーを用いる測定系の構築はすでに進めており,これまで行ってきたテラヘルツ時間領域分光法で使用したセルを用いて進めている.このことによりアーティファクトの入らない測定系が構築できる. それから,αサブユニットのFe-His振動バンドのheterogeneity(ヘテロ性)については,αサブユニットの酸素親和性と2つのFe-His振動バンドの波数との間に相関はみられなかったが,αサブユニットの酸素親和性とβサブユニットの三次構造変化との間には相関があることが示唆されたので,この両者の関係をさらに調べるとともに,βサブユニットの三次構造変化とαサブユニットのFe-His振動バンドのheterogeneityとの関係についても調べていく予定である.βサブユニットの三次構造変化については,α鎖の酸素親和性の変化に伴うβサブユニットの配位結合(βサブユニットのヘムにチロシンが配位したFe3+の変異ヘモグロビンの場合だとFe3+とチロシンの酸素原子間の配位結合Fe-Oに相当する)の結合長変化を可視共鳴ラマン分光法によって調べる予定である.
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