2018 Fiscal Year Research-status Report
荷電脂質膜における多価イオン間静電相互作用と相分離
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17K05610
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
下川 直史 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 講師 (20700181)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | リン脂質 / リポソーム / ベシクル / 脂質二重膜 / 相分離 / 静電相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
リン脂質が水中で自発的に形成する脂質二重膜は細胞膜・生体膜のモデル系として用いられている。多成分リン脂質二重膜では低温において相分離が観察される。相分離は生体膜でのラフトとの関連から重要視されている。このような研究背景から、本研究課題では特に親水頭部に電荷を有した荷電脂質を含む脂質二重膜での相分離や変形に注目し研究を進めている。当該年度は1.多価カチオンが誘起する負電荷脂質膜での相分離、2.膜張力が誘起する二成分負電荷脂質膜での三相分離、3.多価アニオン性脂質を含む脂質膜での相分離ドメイン界面張力測定、4.粗視化シミュレーションによる電場下での荷電脂質膜の相分離と変形を行ってきた。 1では昨年度に引き続き、様々な価数・構造を有した塩を加え荷電脂質膜における相分離を観察した。具体的には1価塩が3種類、2価塩が5種類、3価塩~5価塩が1種類ずつの計11種類の塩を用いた。これより、価数が大きいほど、またカチオンサイズが小さいほど相分離が低塩濃度で起きることがわかった。 2も昨年度に引き続き、荷電脂質と中性脂質から成る脂質膜に浸透圧により張力を印加することで、相分離が起きることを実験的に示した。脂質二成分系であるにもかかわらず三相分離が観察された。この三相分離は荷電脂質の電離状態が関与していることが明らかになった。また、粗視化分子動力学シミュレーションを併用することで、形成された三相の同定を行った。 3では多価の負電荷を有したリン脂質を含む脂質膜での相分離ドメイン界面張力測定を行った。少量荷電脂質を含ませることで、界面張力が低下することを定量的に示した。 4では、粗視化分子動力学シミュレーションを用いて、荷電脂質/中性脂質の二成分系に電場を印加し、相分離と膜変形を解析した。電場方向に荷電脂質が集積し、自発的に膜孔を形成する様子が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度計画した通り、1の多価カチオンの添加実験では塩の種類を大幅に増やすことができた。2でも複数の蛍光色素を用いて三相共存状態の出現をより強く証明した。さらにシミュレーションも行えた点は大きな進展であった。しかし、理論計算にまで手が回らなかった点は今後改善していきたい。3の多価負電荷脂質膜での実験と4の電場を考慮したシミュレーションはともに研究をスタートさせることができ、結果も得られており順調に進んできている。さらに、問題点やその解決策などもはっきりしている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針は以下の通りである。 1.荷電脂質膜への多価カチオンの添加による相分離を引き続き行う。特に観察温度を変化させ、温度による影響を明らかにする。温度の上昇は膜の相分離を阻害するが、同時に溶液内のイオン分布にも大きな影響を与えると考えられる。それらの点を踏まえ実験を行っていく。 2.膜張力が誘起する二成分負電荷脂質膜での三相分離では、三相の同定を実験からも行うことを目指す。荷電ナノ粒子や膜流動性によりスペクトルが変化する蛍光分子Laurdanなどを用いた実験を行う。また、理論計算にも取り組んでいこうと考えている。 3.多価アニオン性脂質を含む脂質膜での相分離ドメイン界面張力測定も引き続き行っていく。複数の荷電脂質を用いることで界面張力低下の一般性を議論していく。 4.粗視化シミュレーションによる電場下での荷電脂質膜の相分離と変形では相分離と変形の相関、結合について定量的な理解を目指していく。
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Research Products
(33 results)