2017 Fiscal Year Research-status Report
Unraveling the spin state of magnetic ionic liquids
Project/Area Number |
17K05619
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
古府 麻衣子 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 任期付研究員 (70549568)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 磁性イオン液体 / 中性子散乱 / スピングラス |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、イオン液体とよばれる多機能液体が液体科学分野で注目を集めている。イオン液体はデザイナー溶媒とも呼ばれ、イオン種の選択に応じ特性を変えることができることも特長である。本研究の対象物質である「磁性イオン液体」は、アニオンにFe原子を含んでおり、磁気特性を示す。過去に行われた磁化測定から、結晶では反強磁性磁気秩序が、ガラスではスピングラス状態が発現することがわかっている。この構造ガラス上で発現する新しいスピングラス状態の本質を明らかにすることが本研究の目的である。 1年目であるH29年度は、C4mimFeCl4の軽水素試料について中性子散乱実験を行った。測定には、J-PARC物質・生命科学研究施設(茨城県東海村)に設置された中性子非弾性散乱用分光器AMATERASを用い、ガラス状態と結晶状態の2つの状態について調べた。結晶状態では、反強磁性転移温度(~ 2.3 K)以下で磁気ブラッグピークの出現し、スピン波的な励起も確認された。しかしながら、メチル基のトンネル励起やフォノンの存在により、磁気相互作用の決定など定量的な解析は困難であった。ガラス状態については、冷凍機の問題によりスピングラス転移温度(~ 0.4 K)以上のみで測定を実施した。結晶状態と比べると、磁気ブラッグピークやメチル基のトンネル励起は観測されず、また非弾性スペクトルの形状も異なっていた。これは、結晶状態で存在していた周期性や対称性がガラス状態で欠如していることを反映している。 H原子特有の強い非干渉性散乱やメチル基のトンネル回転は磁気散乱の観測の妨げとなっており、重水素化物の測定は必須である。重水素化物の合成な試薬はH29年度に購入しており、研究協力者が現在合成を進めている。H30年度は重水素化物について中性子散乱実験を行い、結晶・ガラス状態における磁気特性を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H29年度は軽水素化物の測定のみを行った。重水素化物の反応が軽水素化物よりも進みにくく、試料合成上の問題が生じた。そのため確保していた中性子散乱実験のマシンタイムに試料が間に合わず、実験を延期することになってしまった。また、スピングラス転移温度(~0.4 K)付近の磁気挙動を詳細に調べることは本研究の核であるが、実験に使用する予定であった希釈冷凍機(数十mKまで冷却可能)に不具合が生じ、低温での実験が行えなかった。そこで、H29年度は、標準的な冷凍機を用いて、1.7 ~ 20Kの温度範囲の測定を行った。現在、希釈冷凍機は修理中であるが、スピングラス転移温度付近の振る舞いを調べるためには希釈冷凍機の使用が必須であり、「8. 今後の研究の推進方策」で後述するように海外の中性子施設の利用も検討している。 以上の理由から、研究目的の進捗状況を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度は、H29年度に実施できなかったC4mimFeCl4の重水素化試料の測定を行う。まず、重水素化試料の各転移温度(融解、ガラス転移、反強磁性秩序、スピングラス)を調べる。融解とガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC)を用いて測定する。磁気秩序、スピングラスの挙動は、カンタム・デザイン社製のMPMSやファラデー法を用いた磁化測定装置を用いて調べる。これらの測定により、重水素置換効果について知見を得る。試料のキャラクタリゼーション後、重水素化C4mimFeCl4の中性子散乱測定を行う。構造に関する情報を得るため中性子回折測定を、スピンダイナミクスを調べるため中性子非弾性・準弾性散乱測定を行う。 中性子回折測定にはJ-PARCのTAIKANあるいはSHRPDを用いる予定である。反強磁性秩序相では磁気ブラッグピークが観測されると考えられるが、軽水素試料と磁気構造が同一であるか調べる。一方、スピングラス状態では、軽水素試料では確認できなかった磁気散漫散乱が観測されると予想している。磁気散漫散乱のQ依存性から、相関距離などの情報が得る。非弾性・準弾性散乱測定には、J-PARCのAMATERASやDNAを用いる。反強磁性秩序状態ではスピン波励起が観測されると考えられるが、スピングラス状態でどのような磁気励起が現れるかは全く自明ではない。構造ガラスのボゾンピークのような励起が存在するのではないかと期待している。また、スピングラス転移温度以上で準弾性散乱測定を行い、磁気緩和(スピン液体挙動)の観測を試みる。得られた結果をもとに、従来の磁性体におけるスピングラス状態との比較から、磁性イオン液体のスピングラス状態の特性を浮き彫りにしたい。 希釈冷凍機の修理に時間を要する場合は、海外の中性子施設のマシンタイムを獲得し、研究を遂行する。
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Causes of Carryover |
重水素化物合成のための試薬が予想より高額であったこと、また海外での実験が急遽決まったことなどから、計画していたスクロールポンプの購入を見送った。経費の使用計画に変更が生じた結果、10万円程度の次年度使用額が生じることになった。H30年度の経費と合わせ、スクロールポンプの購入に充てる予定である。
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