2017 Fiscal Year Research-status Report
放射年代及び定量的熱史解析に基づくプルアパート堆積盆の時空分布と発達過程の研究
Project/Area Number |
17K05640
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
伊藤 康人 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20285315)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | テクトニクス / 堆積盆 / 収束境界 / 熱史 / インバージョン / 和泉層群 / 西南日本 / 地殻変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、砕屑岩類に含まれる特定鉱物(ジルコン・アパタイト)の物理的特性の詳細な分析に基づいて、激しい構造運動で特徴づけられるプレート収束境界における多様性の高い堆積盆を精密に対比し、その時空分布を解明することに加えて、大規模な横ずれ断層近傍におけるプルアパート堆積盆の埋没から削剥にいたる進化プロセスを、熱史解析に基づいて定量的に評価し、地球表層の地質学的時間オーダーでの物質循環メカニズムに関して、包括的なモデルを構築することを目的とするものである。日本列島の含まれる北西太平洋エリアは、過去長期間に亘り海洋プレート収束境界の周辺に位置していた。そのため、構造変形が激しくプレート相対運動を決定する制約条件に乏しいため、発達プロセスに関して未解明の部分が多く残されている。白亜紀の北西太平洋縁辺では、イザナギプレートの急速な北上運動などを反映して、斜め沈み込みの卓越する収束境界が多かったと考えられる。島弧の剪断は、横ずれ断層運動に伴うプルアパート堆積盆の発達を励起する。その大規模な構成要素として、西南日本の中央構造線に沿って分布する和泉層群を取り上げた。平成29年度においては、和泉層群堆積盆の発達過程を明らかにするため、閉鎖温度の異なる複数の造岩鉱物を用いた放射年代データを取得した。また、トラック長短縮に基づいて隆起速度推定などの熱年代学的解析を行う際には、地温勾配を仮定する必要があるので、島弧横断測線を設定して試料を採取し、島弧-海溝系における一般的な地殻熱流量分布を考慮した解析を実施した。その結果、中新世の背弧拡大に伴う火成活動の熱的影響と、鮮新世から活発になったフィリピン海プレートの沈み込みに伴うインバージョン構造形成イベントの影響を分離することに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究対象とした和泉層群は、後期白亜紀の堆積岩である。その時期の環太平洋エリアには巨大な堆積盆が発達し、地球表層の物質循環サイクルをコントロールした結果、グローバルな環境変動に重大な影響を及ぼした。しかし、和泉層群からは堆積年代決定に適した化石の産出が乏しく、これまで、正確な地史構築に必要不可欠な広域層序対比が困難とされてきた。今回の研究によって、閉鎖温度の異なる複数の造岩鉱物(ジルコン・アパタイト)を用いた放射年代データを取得し、それらの物理的特性の詳細な分析を行うことによって、激しい構造運動で特徴づけられるプレート収束境界における多様性の高い堆積盆を精密に対比し、その時空分布を解明することに成功した。アパタイトの自発核分裂飛跡(spontaneous FT)は100 ℃前後でアニーリングを起こし、トラック長短縮やフィッショントラック年代若返りなどの現象が生じる。その定量的解析は、堆積盆の冷却過程解明に極めて有効であるが、変動帯での適用例は少なかった。プレート収束境界では、島弧火成活動が普遍的に生じ、砕屑性アパタイト・ジルコンは常に堆積盆に供給されるが、その物理特性の詳細な分析に基づくテクトニクスの総合的研究は前例がなく、本研究によって日本列島の地史解明に貢献すると共に、変動帯研究の新たな方法論を提示することができた。さらに、横ずれ断層運動に伴うプルアパート堆積盆の発達過程を明らかにすることによって、西南日本最大のプレート内断層である中央構造線に沿ってどのような変形ヒストリーが構築できるかを検討して、その1億年にわたる活動フェーズを分離識別し、活断層としての危険度評価を行うことができた。これは、西南日本の地震ハザードの定量分析に資するものであり、今後さまざまな方面で活用されると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には、これまでの成果に基づいて、火山性砕屑粒子の沈降・埋積・隆起・削剥プロセスを採取地点ごとに復元し、堆積盆進化のヒストリーの全容を解明する。そのため、火山砕屑物の後背地と目されるエリア(領家・山陽帯)でも試料を採取する。これらの調査結果と前年度までの成果を総合解釈することによって、和泉堆積盆の沈降から隆起に至る地史を復元する。それと並行して、大規模な横ずれ断層である中央構造線近傍での変形プロセスを詳細解析する。本研究では、二次断層の発達過程モデルを発展させて、中央構造線の両側に広く分布する和泉層群の構造解析を行うことによって、一般的なプルアパート堆積盆の構造を論じる。西南日本については、紀伊半島から別府湾に至る広大な地域で文部科学省が「大都市における大震災軽減化特別プロジェクト」や「中央構造線断層帯重点観測プロジェクト・別府-万年山断層帯重点観測プロジェクト」を実施し、貴重な人工地震探査データが集積している。このため、フィリピン海プレート沈み込み帯の三次元地下構造イメージはほぼ固まり、広域テクトニクスに立脚した堆積盆スタディを総括する機は熟してきた。同時に、放射年代測定法の長足の進歩によって、砕屑岩の数値年代決定精度が向上し、プレート収束境界における堆積盆時空分布を詳細に論じることが可能となってきた。本研究のゴールは、以上の状況を礎として最新の分析手法を導入し、変動帯で普遍的に発達するプルアパート堆積盆の形成メカニズムとダイナミックな物質循環プロセスを解明することと、北西太平洋における過去1億年間のプレート復元モデルを構築することである。また、上部白亜系の広域層序対比の確立は、中生代末の大量絶滅に際して発生したイベントの時系列を解明することにつながるので、地球と生命の進化プロセスについて、どのような制約条件が与えられるかについても着目し考察する。
|
Research Products
(4 results)