2017 Fiscal Year Research-status Report
木星型惑星大気の雲対流構造~放射冷却率と凝結性成分存在度に対する依存性
Project/Area Number |
17K05656
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Research Institution | Matsue National College of Technology |
Principal Investigator |
杉山 耕一朗 松江工業高等専門学校, 情報工学科, 准教授 (60463733)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 健介 九州大学, 理学研究院, 助教 (10192668)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 惑星大気 / 木星型惑星 / 雲対流 / 数値モデリング / 雲解像モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
飽和気塊に働く負の浮力が雲対流の発生に与える影響を調べるために, 凝結性成分の存在度が多い条件下における木星型惑星大気の雲対流の数値実験を行った. 熱平衡を仮定した Guillot (1995) の議論より, 太陽組成の約 10 倍程度の H2O が存在する場合には, 飽和気塊に働く負の浮力によって対流運動が抑制される可能性が指摘されている. また, 太陽系形成論より, 土星・天王星・海王星では Guillot (1995) の閾値よりも多くの凝結性成分の存在が予想されている. 木星・土星ケースでは, 凝結性成分の存在度を Guillot (1995) の閾値よりも大きい太陽組成の 30 倍にしたにもかかわらず, 対流圏界面まで発達する積雲が準周期的に発生した. 雲層内の温度は活発な積雲の発生に合わせて準周期的に変動するという特徴や, 雲層内で NH3 と H2S の蒸気が濃集するという特徴も得られた. 活発な対流が生じる時刻における対流構造の特徴は「3 階建て」である. すなわち, (1) H2O 持ち上げ凝結高度 (H2O LCL) より下では凝結を伴わない熱対流が生じ, (2) H2O LCL の直上では強い鉛直流が見られず層状の雲が生じ, (3) さらに上空で積雲が発達を始める. これらの特徴は木星大気条件で H2O の凝結のみ考慮した類似の数値実験 (中島ら, 1998) の結果と整合的であり, 木星ケースより土星ケースで顕著に見られた. 天王星ケースでは, 対流圏界面まで発達する活発な積雲がほとんど見られず, H2O LCL 付近ではほぼ定常的に層状の雲が発生した. 対流に関わる大気層の質量が大きいため, 積分時間を伸ばす必要があるかもしれない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成 29 年度は大気中の凝結性成分の存在度をパラメタとして変化させた数値実験を予定通り実施し, 飽和気塊に働く負の浮力が雲対流の発生に与える影響について考察することができた. いくつかの数値実験については積分時間が不足気味もしくは結果の解析が十分ではないが, 平成 30 年度以降で十分挽回可能である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においても, 木星型惑星において生じうる雲対流構造の定性的特徴を掌握することを目的として, 凝結性成分存在度と放射冷却率という 2 つのパラメタ空間上に雲対流構造を位置づけることを目指す. 平成 30 年度は前年度からの継続として水平鉛直 2 次元の数値シミュレーションを行う. 凝結性成分の存在度だけでなく, 放射の代替として与える熱強制の大きさもパラメタとして広く変化させる. 得られた結果を元に, 弱い放射冷却に起因する雲対流の間欠性と多量の凝結性成分に起因する飽和気塊に働く負の浮力の 2 つが雲対流の発生に与える影響を重点的に議論する. 平成 31, 32 年度は, 水平鉛直 2 次元の系において徹底したパラメタ実験を実行すると共に, いくつかのケースを代表的なケースを選んで 3 次元の数値シミュレーションを実行し, 木星型惑星において生じうる雲対流構造の定性的特徴に対する理解を深める. さらに, 木星型惑星で観測される特徴的現象を説明可能なパラメタ範囲の掌握に向けた議論を行う. 得られた依存性を元に, 土星において観測される雲対流の間欠性を説明可能なパラメタ範囲を探索し, 天王星と海王星の対照的な赤外放射量を雲対流の間欠性に伴う温度変化によって説明可能か検討する. これにより, 未だに観測の進んでいない木星型惑星の組成や大気構造に対する理解の基礎を得ることを目指す.
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Causes of Carryover |
年度末に入った校務が予定以上に長く日数のかかるものであったため, 出張を急遽中止せざるをえなくなってしまった. その分を次年度に繰り越し, 当初の計画通りに研究打ち合わせの出張旅費として使う予定である.
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