2018 Fiscal Year Research-status Report
大洋間結合の視点から西太平洋気候と熱帯低気圧活動の十年変動プロセスに新知見を創出
Project/Area Number |
17K05661
|
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
望月 崇 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 気候モデル高度化研究プロジェクトチーム, 主任研究員 (00450776)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 正人 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (00749179)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 気候モデリング / 十年規模気候変動 / 熱帯低気圧 / 部分同化実験 / データ同化 / 地球温暖化 / 気候予測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、気候モデルのペースメーカー実験と熱帯低気圧活動の巧みな検出手法という二つの特色ある技術を融合することによって、西太平洋の大規模気候と同時に熱帯低気圧活動の十年変動プロセスの統合的理解を目指している。本年度は、熱帯低気圧活動に関するデータ作成のほか、大規模気候変動の物理解析を中心的におこない、関連成果を国内外で開催された学会や研究集会で発表したほか、一部を査読付き投稿論文として公表した。 大規模気候解析については、各種ペースメーカー実験データと観測データに加えて、気候予測データも含めた比較検討をおこない、太平洋の大規模大気海洋変動に対して大洋を跨ぐようなインパクトやそれに関わる変動物理を探求した。特に、大西洋の季節から数年、十年規模気候変動に注目したインパクト解析では、変動物理がエルニーニョ現象に似て強い季節性を示すものと、気候トレンドに似て赤道上での明瞭な海盆コントラストを示すものに分離することができた。この成果は国際的な学会や研究集会で発表して、投稿論文としてまとめるべく議論を重ねた。また、その基盤となる観測事実として、過去の年代とはやや異なり近年に観測されてきた十年規模変動がそうした特徴をもつことを詳細なデータ解析から明らかにして、投稿論文にまとめて公表した。これらと並行して、その有用性を確認していた気候モデル出力から熱帯低気圧を捕捉する手法を活用して、各種ペースメーカー実験データに適用することにより、熱帯低気圧活動データセットを構築して次年度に解析すべきデータ整備を完了した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
観測データに基づき、太平洋の低緯度域における十年規模変動のゆったりとした変調傾向について把握することができた。また、特に近年に観測される変動はペースメーカー実験が大西洋からの影響を示唆するものとよく似ている。この成果はペースメーカー実験を用いた大規模気候解析の基盤情報として位置づけられ、査読付き投稿論文として公表した。ペースメーカー実験の大規模気候解析では、いろいろな海域から太平洋へのインパクト解析を実施してきた。なかでも、大西洋からのインパクトとして、変動物理がエルニーニョ現象に似て強い季節性を示すものとともに、気候トレンドに似て赤道上での明瞭な海盆コントラストを示すものをとらえた。この成果は熱帯低気圧活動の解析に指針を与えるものであり、これに関する投稿論文を準備中である。大規模気候の変動解析の観点からは、現在までの進捗は概ね順調である。 熱帯低気圧活動をとらえる手法のペースメーカー実験結果に対する有用性については確認していいたので、これを適用して熱帯低気圧活動データセットの構築を完了した。これらに対する初期的な検証解析では、インド洋や大西洋から西太平洋の熱帯低気圧活動に対するインパクトの存在をとらえた。しかし、十年平均場や十年トレンドを題材としてそのデータセットに対するインパクト解析の詳細にはあまり踏み込むことができていない。この点において、進捗にはやや遅れがみられる。これまでの大規模気候解析の成果に基づき、大西洋からのインパクトにまつわる変動について特に注力することが熱帯低気圧活動の効果的な解析のひとつであると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
ペースメーカー実験の大規模気候解析では、いろいろな海域からのインパクトを議論してきたが、最も明瞭であった大西洋からのインパクトを中心にしながら投稿論文にまとめる。数年から十年の時間スケールの変動物理について、相対的に取り組みが進んでいる他の時間スケールの変動物理と比較検討しながらまとめていく。この時、太平洋の大規模大気海洋変動のなかでも、熱帯低気圧活動に特に深く関わると期待される西太平洋にも注意をはらう。また、変動の時間スケールを勘案すれば海洋が大きな役割を果たすことは間違いないだろうが、大気海洋変動としての包括的な理解のために大気変動にも注意をはらう。 大規模気候解析の結果に基づいて、大西洋からのインパクトに特に注力しながら熱帯低気圧変動に関する解析を実施する。特に、インパクト解析ではその物理的解釈を目指して、季節によるばらつきやアンサンブルメンバーによるばらつき、また空間分布など多様な切り口で把握を試みる。こうして得られた西太平洋気候と熱帯低気圧活動それぞれで捕捉したインパクトやそれにまつわる物理プロセスの知見を突き合わせて、大規模な大気海洋変動のどのような変化が熱帯低気圧活動の変化につながっていくか、大洋間結合の視点からの統合的プロセス理解を目指していく。成果は、国内外の学会や研究集会などで発表するとともに投稿論文にまとめる。
|
Causes of Carryover |
物品費に関しては、研究代表者と研究分担者がデータ解析に加えて議論や成果公表で活用するPCを更新、増強する必要性が生じたこと等のため、大容量データストレージは当初予定していた新規購入を控えて解析計算機サーバに接続されたものを継続使用した。一方、旅費に関しては、国際的な学会や研究集会を効率よく利用して研究成果を発表することにより費用を抑えることができた。予測や変動物理など十年気候変動全般を議論するような包括的な講演の一部として本研究課題の成果を国際学会で発表することができたほか、他の研究成果の発表や情報収集の機会にあわせて成果公表をおこなうこともできた。また、投稿論文による成果公表においても、発表論文の質向上を図るために他の研究成果と組み合わせたことが投稿料など全体経費の抑制につながった。 次年度も国際的な研究成果発表を継続的におこなう必要があり、学会や研究集会にかかわる旅費や参加費、また英文校閲や投稿料などの論文投稿にかかわる経費として使用する。成果公表に先立ち、研究者間の議論や打ち合わせを実施するための旅費や、小容量データストレージや利便性の高いソフトウエアの購入といったデータ解析や資料作成のための費用としても使用する。
|
Research Products
(5 results)