2019 Fiscal Year Research-status Report
降水中の硫酸の硫黄・酸素同位体比から見る中国地方への中国からの越境汚染
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17K05716
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
千葉 仁 岡山大学, 自然科学研究科, 特命教授 (30144736)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 降水硫酸 / 越境汚染 / 硫黄同位体比 / 酸素同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
9年間行ってきた中国地方を縦断する測線での大気降下物(降水)の採取を2018年度末で終了し,比較のために2017年度より始めた岡山大学における浮遊性粒子状物質の採取も2019年度夏で終了して,越境汚染解明のための試料採取を終了した。 降水の陽イオン分析において,原子吸光分析では濃度が低いために精度が不足していることが明らかなったため,未測定だった試料の測定に加えて,2011年以降に採取した試料について,総合地球環境学研究所の共同利用によりイオン・クロマトグラフによる測定に測定方法を変更して再分析を行った。これにより,これまでの測定で中国大陸における石炭燃焼からの越境汚染による季節変動が明瞭に見られなかった測定年度の降水の非海塩性硫酸の硫黄同位体比を改善した。その結果,非海塩性硫酸の硫黄同位体比の季節変動が明瞭化され,また2018年は季節変動が不明瞭であることが判明した。 降水の水素・酸素同位体比の測定をこれまでに採取し,保存してきた試料と2018年度採取した試料について,総合地球環境学研究所の共同利用により,CRD分光同位体比測定装置により行った。降水のd-indexの季節変動が従来と同じであることを確認した。この結果は,降水をもたらしている水蒸気のソースが研究期間を通じて変化していないことを示している。 新たに黄砂飛来時に岡山市において採取した浮遊性粒子状物質の分析から,黄砂飛来時の浮遊状粒子状物質の水溶性硫酸イオンの硫黄同位体比が+3~+4‰の間にあることを明らかした。降水中の非海塩性硫酸イオンに,春期の黄砂由来の硫酸イオンが寄与していると考えてきた仮説と矛盾ない結果が得られた。今後,これらの試料のもう一つの指標である酸素同位体比を測定して仮説の検証を行う必要があることが明になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
中国地方を縦断する測線での大気降下物(降水)の採取は予定通り2018年度までで終了した。当初計画になかった岡山大学における浮遊性粒子状物質の採取は,2019年の黄砂飛来時期を過ぎた7月までで終了とした。以上の試料採取により,本研究で用いる試料を十分な量採取できた。 降水の化学分析については,分析法を原子吸光分析からイオン・クロマトグラフに変更して,過去に採取した旧法での分析済み試料も再分析して,分析精度の均一化と高精度化を図った。この結果,これまでの分析法のデータでは明確ではなかった降水中の非海塩性硫酸の硫黄同位体比の季節変動が経年的に明瞭かされた。一方,2018年には,この変動が不明瞭であることも明らかになった。 降水の水素・酸素同位体比の測定を終了させた。得られた結果から,降水のd-indexの季節変動が従来と同じであることが確認され,降水をもたらしている水蒸気のソースが研究期間を通じて変化していないことが明らかになった。 降水硫酸と浮遊性粒子状物質の水溶性硫酸イオンの硫黄同位体比分析は,硫黄同位体比測定用質量分析計を東京海洋大への移設後に故障が起きたため一部の試料で分析が完了していない。2019年度末には修理が完了したので,今後早急に測定を行う予定である。また,これら試料の酸素同位体比測定も遅延しており,残っている2017年8月以降の試料について岡山大学の学内共同利用の質量分析計を用いて,早急に行うため試料調整を完了させた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)測定機器の故障により,測定ができていない硫酸イオンの硫黄同位体比を修理が完了し測定が可能となった東京海洋大学の質量分析計により測定を行う。コロナ肺炎の蔓延により代表者が実際に測定できない場合には,東京海洋大学の研究者に測定を依頼して分析を行う。 2)測定が遅延している硫酸イオンの酸素同位体比の測定を岡山大学の共同利用機器を用いて早急に行う。 3)1)と2)の結果を用いて,降水中の非海塩性硫酸が①中国大陸での石炭燃焼起源のもの,②日本国内の主として石油燃焼起源のもの,③主に春先に観測される黄砂に含まれる水溶性硫酸イオンの三つからなるという本研究で立てている仮説を検証する。 4)3)の結果を踏まえ,中国大陸からの越境汚染の経年変化とそれが中国地方で及ぶ範囲について考察を行い,結果の取りまとめを行う。
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Causes of Carryover |
本研究の主要な測定項目である硫酸イオンの硫黄同位体比を測定するための質量分析計(研究代表者所有の機器)は,岡山大学で使用していた実験室が講義室への目的変更されたため,東京海洋大学に移管して使用していた。この装置は2019年11月に故障し,使用ができなくなった。2020年3月に修理が完了し使用が可能となったが,故障している間に測定ができなかったため,本研究を完成させるための重要なデータが未だ得られていない。また,同様に重要な測定項目である硫酸イオンの酸素同位体比の測定も試料の調整が遅延したことで完了していない。 次年度使用する予算は,東京海洋大学における硫黄同位体比測定,岡山大学の学内共同利用施設における酸素同位体比測定,および,結果の取りまとめのために使用する。
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