2017 Fiscal Year Research-status Report
Gas adsorption occurred with structural change of host lattice and switching of dielectric property
Project/Area Number |
17K05737
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
武田 定 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00155011)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 気体吸蔵 / 相転移 / 誘電物性 / 配位高分子錯体 / 一次元鎖 / 一次元細孔 |
Outline of Annual Research Achievements |
錯体結晶[Cu2(bza)4(pyz)](bza=安息香酸、pyz=ピラジン)(pyz錯体)およびpyz配位子を1,4-ジアザビシクロオクタン(dabco)に置換したdabco錯体結晶のエチレンおよびエタンの吸蔵特性を、当該ガス雰囲気下で示差走査熱量測定(DSC)と吸着等温線の測定により調べた。dabco錯体結晶においてもホスト格子の構造相転移を伴う気体の吸蔵・放出が起こることを新たに見出した。それぞれのガス分圧と相転移温度の関係はクラウジウスクラペイロンの式でよく説明でき、ゲスト分子と錯体格子間に働く相互作用の大きさを見積もることができた。吸蔵ゲスト分子の運動状態を調べるために、dabco錯体に重水素化エチレンを吸蔵させた状態で、固体重水素核NMR測定を行なった。その結果、dabco錯体に吸蔵されたエチレン分子は、その放出が起こる温度にいたるまでに結晶中で異なる二種類のサイトを一軸性の高速回転運動をしながらホッピング拡散運動することを見出した。 さらに、パラ位を置換した安息香酸 (4-X-Benzoate)とピラジンまたは1,4-ジアザビシクロオクタン(dabco)を用いた錯体結晶を新たに合成し、格子の構造相転移を伴って無極性分子であるエチレンおよび極性分子であるジフルオロメタン(CH2F2)を吸蔵することを見出し、格子の構造相転移を伴う気体の吸蔵・放出現象の拡張に成功した。 気体雰囲気下のDSC測定から、気体吸蔵に伴う熱量変化が最も大きいのは4-F-Bza錯体であり、F-Bza錯体は自身の格子構造を大きく歪めて気体分子を取り込むことが分かった。特に、極性分子の方が無極性分子よりも格子との引力が大きいことが分かった。また誘電率測定の結果、極性分子であるジフルオロメタンの吸蔵・放出に伴って比誘電率が変化することも見出した。よって、本年度研究実施計画をほぼ達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一連の錯体結晶[Cu2(4-X-bza)4(L)] (4-X-bza=4-置換安息香酸、L=pyz=ピラジン、dabco=1,4-ジアザビシクロオクタン)が、可逆的なホスト格子の構造相転移を伴って、気体分子を吸蔵・放出する現象を拡張した。その結果、ホスト格子の構造変化エンタルピーとホスト格子からの気体の蒸発エンタルピーを分離して求める研究を進展させた。 ホスト格子の明確な構造相転移を伴って、気体分子を吸蔵・放出する現象はこの一連の錯体結晶の構造的特徴に由来すると考えられる。これらの錯体結晶は、四つの(4-X-bza)配位子を持つ銅二核錯体が二座配位子によりつながれた一次元鎖を構成し、その一次元鎖どうしが弱いファンデルワールス力により集積して結晶を作っている。決まった大きさの細孔中に気体分子が吸蔵されるのではなく、いわば気体分子にあわせて一次元鎖どうしの集積状態が変化する特徴を持つ。 当初の研究計画では、誘電物性の創成は、平成30年度に行う予定であったが、これを先取りして誘電物性の測定を開始した。[Cu2(4-F-bza)4(dabco)]錯体結晶に極性分子であるジフルオロメタンを吸蔵させて40K~300Kの温度範囲で複素インピーダンス測定を行った。ジフルオロメタンの放出に伴って比誘電率が小さくなることを見出したが、極性分子のランダムな運動に期待される誘電分散は観測されなかった。これは、この結晶が気体分子にあわせて一次元鎖どうしの集積状態が変化する特徴を持つことと関連すると考えられる。 そこで、ほぼ決まった大きさのキラルな一次元細孔を持つ錯体結晶Y(BTC) (BTC= Benzene-1,3,5-tricarboxylate)にジフルオロメタンを吸蔵させて、複素誘電率を測定した結果、70K近傍で強誘電的相転移と思われる誘電異常を見出した。このように本研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
可逆的なホスト格子の構造相転移を伴って、気体分子を吸蔵・放出する現象を拡張し、その結果、ホスト格子の構造変化エンタルピーとホスト格子からの気体の蒸発エンタルピーを分離して求める研究を進展させた。特に、[Cu2(4-F-bza)4(dabco)]錯体結晶は、自身の格子構造を大きく歪めても気体分子を取り込むことが分かった。この結晶に重水素化エチレンを吸蔵させて重水素核NMR測定を行い、ホスト格子内でのエチレン分子の運動状態を、平成29年度にすでに解明している[Cu2(4-H-bza)4(dabco)]錯体結晶中でのエチレンの運動状態と比較検討し、各ホスト格子との相互作用の違いを調べる。 ほぼ決まった大きさのキラルな一次元細孔を持つ錯体結晶[Y(BTC)] (BTC= Benzene-1,3,5-tricarboxylate)にジフルオロメタンを吸蔵させて、複素誘電率を測定した結果、70K近傍で強誘電的相転移と思われる誘電異常を見出したことを受けて、さらにこの物質の誘電物性を深く探究すると共に、一次元細孔を持つ様々な配位高分子錯体に極性分子を吸蔵させて、誘電物性の開拓を推し進めていく。 先に述べた錯体結晶[Y(BTC)]はキラルな一次元細孔を持つが結晶の空間群としては中心対称性を持つ構造である。極性分子を吸蔵した状態で中心対称性がなくさらに極性を持つ構造となれば、強誘電性など顕著な誘電物性を実現し、また吸蔵量に応じてその誘電物性を制御するという柔軟性を持たせることができると期待される。錯体結晶[Y(BTC)]には合成方法を変えると極性を持つ空間群であるFdd2の構造で一次元細孔を持つものがある。この結晶などに研究を広げていって、極性分子の吸蔵量に応じてその誘電物性を制御するという新たな誘電物性の創成を目指す。
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Causes of Carryover |
消耗品費用を有効活用するため、5万円程度であるが、次年度の消耗品購入に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)