2019 Fiscal Year Research-status Report
Extension of deuterium NMR spectroscopy of paramagnetic solids for analysis of molecular structure
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17K05741
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
飯島 隆広 山形大学, 学士課程基盤教育機構, 准教授 (20402761)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 核磁気共鳴 / 固体 / 重水素 / 常磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体NMR分光法のなかでも重水素核(2H)の固体NMRは,固体物質における分子の静的構造だけでなく動的構造(分子運動)を調べるための極めて有力な方法である.しかし,これまでの研究対象は反磁性化合物が圧倒的多数であり,常磁性化合物に対しては,不対電子の影響により測定及び解析が困難となることから,興味深い測定対象系があるにもかかわらず,研究報告例は極僅かであり,得られる情報も限られていた.我々は常磁性固体の分子構造を精密に調べるために,重水素NMRの一連の手法の開発を目指している.本研究では,これまでの固体重水素NMR法を拡張し,得られる情報の量や精度を向上させる. 研究計画調書に記した2つの新規な測定法のうち,1つ目の化学サイト分離法については既に開発を終え,内容をまとめた論文が学術専門誌に掲載された.2つ目の新規測定法である二面角決定法については現状では実現が困難であることが分かり,開発を断念した.しかし開発の過程で別な測定法を思いつき,実現に向けた検討を行っていた.簡単なモデル化合物で実験を行ったところ,理論計算及び数値計算で予想された通りの結果がほぼ得られていた. 本年度はさらに分子運動の検出の実現に向けた研究を行った.昨年度とは異なる分子運動を有するモデル化合物を用い,固体NMRスペクトルの温度依存性の測定を行った.数値解析を行ったところ,所望のスペクトルがおよそ得られることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題では2つの新規な固体重水素NMR測定法の開発を提案している.1つ目は異なる化学サイトのスペクトルを分子運動の違いを利用して分離する方法である.研究計画調書に記載した通りのラジオ波パルス列の照射により,モデル化合物において2つの化学サイトを分離することに成功した.2つ目の二面角決定法については残念ながら開発を断念するに至ったが,測定法を検討する中で別な新規パルス照射方法を思いついた.この別法が実現すれば,従来よりも高精度に相互作用パラメータや分子運動の相関時間を見積もることが可能になる.理論計算及び数値計算では正しく動作することが示され,モデル化合物を用いた測定でも所望のスペクトルが得られた.さらに分子運動の検出にも有用であることが示されつつある. 残り少しの測定を行い,それらの結果を論文にまとめれば研究完了である.年度内に完了するはずであったが,年度末近くに新型コロナウイルスによる影響で全国的に活動が自粛されることになった.これにより測定が実施不可となり,研究も終えることができなかった.この意味で本研究は「やや遅れている」状態にある.
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Strategy for Future Research Activity |
第2の新規測定手法について研究を仕上げていく.具体的には,分子運動を有するモデル化合物を用いて,重水素NMRスペクトルの温度変化の測定を行う.インコヒーレントな現象である分子運動に伴い磁化が弱まるため,より高精度な温度コントロールを行い,積算を重ねて信号強度を上げる.結果を数値解析し,これまでの結果と併せて論文にまとめる.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は新型コロナウイルスに伴う全国的な活動自粛である.本来実施するはずだったNMR測定の装置利用費,測定のための旅費,及び論文作成費に使用する計画である.
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