2018 Fiscal Year Research-status Report
分子コンホメーション制御により多重クロミズムを実現する結晶設計
Project/Area Number |
17K05745
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
植草 秀裕 東京工業大学, 理学院, 准教授 (60242260)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フォトクロミズム / サーモクロミズム / サリチリデンアニリン / 結晶構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
クロミズムは外部刺激により物質の色が可逆的に変化する現象であり、光記録情報媒体や外部刺激に対するセンサー物質として応用的にも重要である。本研究は複数の外部刺激により異なるクロミズムを示す、多重センサーとして期待される新しい結晶性物質を創製することを目的とする。その手段として、結晶内の分子のコンホメーションに依存して異なったクロミズムを示す分子の探求と結晶設計、さらに結晶構造変化による色変化を利用する。特にサリチリデンアニリン類は結晶環境に依存して、様々な分子コンホメーションを示し、しかも、それにクロミズム特性がリンクするため、第一のターゲット物質とした。
今年度の研究は、サリチリデンアニリン誘導体を配位子とするコバルト作成の合成とその結晶構造解析、クロミズム特性の解明を行った。このCo(II)錯体は、サリチリデンアニリン-ピリジン誘導体4分子をエカトリアル位置に、NCS(-)2分子をアピカル位置に持つ6配位型錯体であることを単結晶構造解析から明らかにした。結晶構造解析からは、サリチリデンアニリン-ピリジン誘導体内の二面角は約30度程度で、この配位子分子由来のフォトクロミズムを示すことが予測された。実際にこの錯体結晶に紫外光を照射すると橙色が赤色に変化し、室温放置によりもとに戻るというフォトクロミズム特性をUV/Vis測定により確認した。一方、結晶を冷却すると橙色から黄色への色変化を示しサーモクロミズム特性も併せ持つという知見を得た。これらの色変化は配位子であるサリチリデンアニリン-ピリジン誘導体分子が持つフォトクロミズム・サーモクロミズムの色変化(橙色-赤色、橙色-無色)と、コバルト錯体形成によるCo(II)イオンのd-d遷移による着色の合わさったものであると理解できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理由第2年目の当初の目的は、サリチリデンアニリン誘導体である、サリチリデンアニリン-ピリジン誘導体を合成し、それを配位子として使った錯体を合成して、クロミズム特性や分子の合成方法、分子の安定性などを検討することになっていた。また、手法としてはXRD,UV/Vis, TG/TDAにより結晶相の分子を確認し、さらに結晶構造解析により分子構造を明らかにするとしていた。今年度は目的とするCo(II)錯体の合成に成功し、またクロミズム特性を明らかにすることで、これらの目的を十分に達成した。また、サリチリデンアニリン-ピリジン誘導体錯体結晶の構造とクロミズム特性の関係を明らかにするという目的について、複数のサリチリデンアニリン-ピリジン誘導体分子を合成して錯体を組み上げ、特に配位子のねじれ角を中心とした構造パラメータがクロミズム特性と関係があるという点を明らかにするという成果を挙げた。錯体の合成と解析については現在も進行中であり、第3年度での成果が見込まれる。以上のことから進捗状況を「おおむね順調」評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
第3年目は、結果のまとめの年度に相当する。第1年目から引き続いて行いつつある、サリチリデンアニリン-ピリジン配位子による錯体形成については、そのスキームを確立しており、前期まで引き続き誘導体を使った錯体の合成と、そのクロミック特性の評価に注力して研究を進める計画である。現在、Co(II), Ni(II)などの金属イオンを用いた錯体形成を試みており、すでにいくつかの錯体について合成に成功している。これらの錯体の クロミック特性を調べ、さらにその特性と結晶構造との相関を明らかにすることを目標としている。手法は引き続き、結晶構造解析を中心に、スペクトル測定等で物性を測定する。また、アモルファス相における分子構造決定法として、XAFS測定、理論計算による分子構造最適化を併用する予定である。 一方、その目標達成後には、まとめとして、その構造とクロミズム発色の詳細な原理検討を行う必要がある。このため、理論計算を用いた分子構造最適化を用い、UV/Visスペクトルのシミュレーションを行う。これにより、発色原因が配位子による発色と、中心金属イオンのd電子による発色を合わせたものであるという予測を確認することができる。以上をまとめ、論文また学会発表を行う。
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Causes of Carryover |
当初計画より進展があったため、平成31年度に購入予定であった消耗品(化合物合成用試薬)を平成30年度後期に多く購入し、前倒し請求を行った。これにより順調に計画を推進することができたが、H30年度からH31年度に連続して研究を行っており、3月と4月の消耗品購入状況により僅かな次年度使用額が生じた。 この次年度使用額は平成31年度4月に即時使用する。
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