2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of organic conductors possessing diode properties
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17K05751
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
圷 広樹 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (80316033)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有機導体 / 安定有機ラジカル / 極性結晶 / ダイオード特性 / BEDT-TTF / 伝導性 / キラル / 分極 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度もコロナ禍であったが、2020年度よりは進展した。以下に(1)から(3)に分けて記述する。(1)新しい安定有機ラジカルとしてVerdazylに着目し、比較的小さなメチル基によってラジカル部の分解反応を抑えた、1,5-dimethyl-3-(4’-A)-6-oxoverdazyl (A = carboxyl, carboxylphenyl)の合成を文献に従って行い、H2NCH2SO3Hなどとの脱水縮合反応によるアニオンの合成を試みた。しかし、メチル基では嵩高さが足りないのか、ラジカル部が不安定で分解がどんどん起きてしまっているようで、単離精製を行う事ができなかった。また、新しいアニオンとして、rac-PROXYL-CONH-m-C6H4SO3-(A1)を合成する事ができ、β''-(BEDT-TTF)2(A1).PhCl塩(1)を得た。1軸の格子定数が46 Åと長く、R値が充分には落ちていないが、分極はほぼないようだ。 (2) 2020年度に開発された新規結晶α-(BEDT-TTF)2(R-PROXYL-CONHCH2SO3)・3H2O(2)はアニオン層で極性アニオンは同じ方向を向く配列を取り、ドナーのスタック方向に沿って分極している極性結晶であった。15 kbarまでの圧力下電気伝導度測定を行ったが、金属化することはできなかった。しかし、 電気抵抗率の低温での飽和(活性化エネルギーが低温に行くに従って低下し、一定以上抵抗が上昇しない)が見られた。極性結晶においては表面のみで分極が打ち消されず、その分極によって表面だけが一方が正に、もう一方が負に帯電するはずで、その帯電に基づく可能性のある表面電流の存在が示唆された。 (3)極性有機導体、α-(BEDT-TTF)2(PO-CON(CH3)CH2SO3)・3H2O(3)の結晶作成はあまり進めることができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、α-(BEDT-TTF)2(PO-CON(CH3)CH2SO3)・3H2O(3)の結晶のダイオード特性の再現や圧力測定など物性測定については昨年度に続き研究は遅れ気味である。2021年度に反転双晶でない結晶の作成や探索を進める事ができなかったからで、今年度行う予定である。なお、2020年度までの測定でダイオード特性の再現は無理なのではないかと諦めつつあると報告した。今年度、高圧での電気伝導度測定を行い、電荷グラデーションの実現を目指す。α-(BEDT-TTF)2(R-PROXYL-CONHCH2SO3)・3H2O(2)が今度はスタック方向に分極した結晶であったので、スタック方向でI-V特性の確認を行なった。しかし、やはり整流性を確認することは出来なかった。そこでやはりダイオード特性の再現は無理なのではないかと考えられる。この結晶は反転双晶になりにくい事がわかっていたため、Flack parameterがzeroであることを確認せずに測定を行った。一応2022年度は、Flack parameterが完全にzeroの結晶を探して再測定してみる予定である。このように、ダイオード特性はなかなか得られないものの、新しい極性伝導体の開発やキャラクタリゼーションは充分進んだと言える。また、2の塩で15 kbarまでの圧力では金属化する事ができず、電荷グラデーションを実現する事ができなかった。また、新規アニオンの合成でも、注目したVerdazylラジカルが不安定で、進展しなかったが、一方、POラジカルを用いた新しいアニオンからはっきりとは分極していないものの新しい塩1が得られたので、全体としては研究は普通に進んだと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
極性結晶α-(BEDT-TTF)2(PO-CON(CH3)CH2SO3)・3H2O(3)については、真の反転双晶ではない極性結晶を作成するため条件検討を続けて行う。得られた結晶について、圧力下での伝導度測定を行うのに用いるとともに、ダイオード特性を再現する研究は続けて行うつもりである。低温でのI-V測定を今のところ考えている。2020年度および2021年度中に進める予定であった3の圧力下の物性測定が全く進んでいないので、2022年度中にFlack parameterがほぼzeroの結晶を得る事ができたら、圧力下での測定をスタートし、完了させる予定である。当研究室では大阪市立大学名誉教授の村田惠三先生が開発したクランプタイプのBeCuの圧力セルを用いていて、セルが壊れることを覚悟すれば3.0 GPaまでの圧力印加が可能である。ただ、塩2では活性化エネルギーの圧力に対する減少率があまりに小さかったので、1.5 GPa まででやめた。3.0 GPaでは圧力が足りないようであれば、この助成が終わった後になってしまうかもしれないが、理化学研究所(和光)の崔亨波氏にダイヤモンドアンビル圧力セルでの単結晶伝導度測定を依頼する予定である。十倍以上の圧力の印加が可能である。磁化率測定では、単結晶でなくて粉末結晶を用いる予定で、その場合、反転双晶でも問題がないので、2019年度に既に測定に十分な量が得られているので、圧力下の抵抗測定で金属化ができるようなら、当研究室所有のSQUID磁束計を用いて圧力印加状態での磁化率の測定も行う予定である。なお、2022年度は予算が限られるため、新しい塩の開発はストップする予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、実験は予定よりも進みが遅くなってしまった。このため、2021年度に繰り越した予算のうちのおよそ1/3を2022年度に繰り越した。2021年度までの計画で実行できなかった実験を行う。そのために予算を使用する。
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Remarks |
業績などについては https://www.researchgate.net/profile/Hiroki-Akutsu もご参照ください。
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