2017 Fiscal Year Research-status Report
黒体放射の起源とする高励起状態間エネルギー緩和過程の研究
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17K05763
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
築山 光一 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 教授 (20188519)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 一酸化窒素 / リュードベリ状態 / 黒体放射 / 誘導放射 |
Outline of Annual Research Achievements |
孤立状態にある分子の高励起状態においては、放射過程(主に蛍光)および無放射過程(主に前期解離や自動イオン化)が競合している。我々はこれまで一酸化窒素分子(NO)の高リュードベリ状態の自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission; ASE)や黒体放射誘起の誘導放射光を観測するで、高Rydberg状態におけるエネルギー緩和経路を決定した。今回、光光二重共鳴法を用いて生成した nf(n = 13-15)(v = 0)状態や np(n = 14, 15)(v = 0)状態、nss(n = 14, 15)(v = 0)からの遠赤外発光の検出に成功し、これらの緩和経路を決定した。nf状態に関してはnf→(n-1)g→(n-2)fのカスケード的な遷移が観測され、遷移確率の議論よりこの遷移は黒体放射誘起の誘導放射過程であることを明らかにした。また、np状態に関してはnp→(n-1)f遷移のあと、nf→(n-1)gのカスケード的遷移が観測された。nss状態に関しては、黒体放射の吸収により、よりエネルギーの高い(n-1)fへ遷移し、そこからf状態と同様なカスケード的遷移が観測された。 また、自動イオン化Rydberg状態(v = 1, 2)からの誘導放射光の検出を通じて、自動イオン化状態における誘導放射過程の重要性の評価を試みた。自動イオン化状態の励起スペクトルと分散発光スペクトルから、自動イオン化状態ではないv = 0と同様の緩和経路が示唆された。このことより、NOのRydberg状態間遷移において誘導放射、前期解離、自動イオン化の緩和過程が競合していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光-光二重共鳴法を用いて一酸化窒素NOの高Rydberg状態であるnf(n = 13-15)(v = 0)状態、np (n = 14, 15)(v = 0)状態、nss(n = 14, 15)(v = 0)への励起を誘導放射光を信号光として達成し、各Rydberg状態からの誘導放射光の観測を行った。nf (n = 13-15)(v = 0)状態は分散発光スペクトルを測定することで、nf→(n-1)g→(n-2)fのカスケード的遷移が起こっていることが明らかになった。また、np (n = 14, 15)(v = 0)状態に関してはnp→(n-1)f遷移のあと、nf→(n-1)gのカスケード的遷移が観測された。np→(n-1)f遷移に関しては発光波長が検出器の感度範囲外であったため、検出には至らなかった。nss(n = 14, 15)(v = 0)に関しては黒体放射の吸収により、よりエネルギーの高い(n-1)fへ遷移し、そこからf状態と同様なカスケード的遷移が観測された。また、13f→12gの約88 マイクロメートルの発光の偏光特性を遠赤外用ワイヤーグリッドを用いて測定した。この発光はLIFの理論偏光度と比較して同等からそれ以下の偏光度を有していることがわかった。これは、無偏光である黒体放射誘起の誘導放射であることから、3光子過程としてのLIFよりも偏光度が小さくなったためであると結論づけた。NOの現段階の検出器で測定可能である遠赤外発光は125マイクロメートルまでであるので、さらに長波長の誘導放射光を測定するためには現在故障中の遠赤外検出器を修理する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行ってきた前期解離と競合するNOの高Rydberg状態における誘導放射過程に関する研究の三原子分子への応用を考えている。そこで我々は、NOを前期解離状態として有する三原子分子である二酸化窒素NO2に着目した。二酸化窒素は比較的安定して存在できる非直線三原子ラジカルであり、可視光領域に吸収が存在することもあり、分光学的に長く研究がされてきた分子である。しかし、二酸化窒素は多くの電子状態からの摂動や、Fermi共鳴、Darling-Dennison共鳴などの振動状態どうしの相互作用によりとても複雑なポテンシャルを形成し、そのスペクトルの解析は困難を極める。そこで我々は比較的他の電子状態に対して孤立しているD 2B2状態に着目した。D 2B2状態は、他の状態との擬交差により振動励起状態は前期解離性を有するため寿命が短く、振動励起状態からの蛍光の観測は難しい。しかし、自然放射増幅光ASEは前期解離性状態からでも観測されることから、D 2B2状態のASE観測が成功すれば、D 2B2状態の高振動励起状態の解析が可能になると考えられる。また、Rydberg状態であるE 2Sigmau+状態より高い電子状態は蛍光が観測されていない。しかしASEは非蛍光状態からでも観測されることから、Rydberg状態を含む高励起状態からのASEを観測することで、解析が進んでいないNO2の高電子励起状態の解析を試みる。
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Causes of Carryover |
平成30年3月に液体ヘリウムの使用を計画していたが、遠赤外線検出器(ボロメーター)の不調により計測を延期したため。 平成30年度においては、主に液体ヘリウムや光学部品等の消耗品を購入する。
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Research Products
(4 results)