2017 Fiscal Year Research-status Report
溶媒種による反応性や選択性の変化を予測できる新規溶媒効果計算プログラムの開発
Project/Area Number |
17K05787
|
Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
金野 大助 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 准教授 (00361593)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 溶媒効果 / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
溶媒種の違いが反応選択性に大きく影響する顕著な例として,はじめにピロール類の位置選択的トリシアノビニル化反応を取り上げ,実験および分子軌道計算の両面から解析を行なった。実験の結果,本反応はN上の置換基及び溶媒種の組み合わせによって選択性や反応性が大きく変化し,特に置換基がアルキル基の場合には,溶媒種を変えるだけで位置選択性が反転することが示された。また理論計算によって本反応の反応機構の解析を試みた結果,本反応は単純な芳香族求電子置換反応とは異なる多段階反応であり,反応初期段階に起きるC-C結合形成段階の反応性に,溶媒効果が強く影響していることが示唆された。次にα位に不斉中心を有するケトンのジアステレオ選択的ヒドリド還元について,同様に実験および分子軌道計算の両面から解析を行なった。メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)やシクロペンチルメチルエーテル(CPME)などの立体的にかさ高いエーテルを溶媒として反応を行い,ジエチルエーテルを溶媒とした場合の実験結果と比較したところ,反応速度やジアステレオ選択性に顕著な変化は見られなかった。本反応では,試薬由来の金属イオンに配位した溶媒分子の立体効果がジアステレオ選択性に影響を与えると考えられるため,MTBEやCPMEなどの分子サイズが大きいエーテルでも,溶媒効果としてはジメチルエーテルと同程度であると評価できることが示された。また,これらの反応に用いた溶媒種のうち,ジメチルエーテルやアセトンなど比較的構造が単純なものについて理論計算による構造最適化を行い,得られた構造を用いることで立体効果の定量的評価も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,溶媒を極性効果と立体効果の両面から定性的に評価する溶媒効果理論を構築し,その有効性を検証することを目的としている。ピロール類の位置選択的トリシアノビニル化反応やα位に不斉中心を有するケトンのジアステレオ選択的ヒドリド還元について,各種溶媒による実験を行うことで,溶媒種による選択性の反転や,溶媒分子の分子サイズによる反応性の変化などについての結果を得ている。また,理論計算によって反応機構を解明することで,基質や試薬に対する溶媒分子の相互作用のメカニズム解明も進んでいる。特にヒドリド還元反応においては,分子サイズが大きく異なる溶媒を用いても反応に変化が見られないことから,溶媒の立体効果として単純な分子サイズを用いることが不適切であることなどの知見も得ており,研究はおおむね順調に進展していると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
ピロール類の位置選択的トリシアノビニル化反応においてさらに異なる基質,溶媒種で実験を行い,溶媒種と選択性の関係について検証を行う。また,ジメチルエーテルやアセトンなど比較的構造が単純な溶媒分子に加え,メチルtert-ブチルエーテルやシクロペンチルメチルエーテルなどの立体的にかさ高い溶媒についても,理論計算を用いることで立体効果の定量的評価を行い,実験結果との整合性について検証を行う。
|
Causes of Carryover |
前年度に発表を予定していた国際学会の期間が,別に発表を予定していた国内学会の期間と重なってしまったため,参加を断念せざるを得なかった。したがって,前年度に発表を予定していた内容を,本年度に開催される国際学会にて発表する予定である。
|