2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K05792
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
岩岡 道夫 東海大学, 理学部, 教授 (30221097)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アミノ酸 / インスリン / スレオニン / 不飽和カルボン酸 / 不飽和ラクトン / 光学分割 / グルタチオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、セレノシステイン(Sec)の有機触媒としての機能開拓を行うことを目的とし、4つのミッション((1)新規αメチルセレノシステイン誘導体の合成、(2)ペプチド合成に有用なセレノシステイン誘導体の大量合成法の開発、(3)セレノペプチドの分子設計と合成、(4)セレノグルタチオン(GSeSeG)の合成と酸化還元反応性に関する基礎データの収集)の遂行を実施している。2年目(平成30年度)は当初の研究計画に基づいて研究を進め、以下の研究成果を得ることができた。ミッション(1)では、平成30年度に合成したセレノスレオニンを用いた不斉触媒反応を行い、セレノシステイン誘導体の不斉触媒としての可能性を検討した。ミッション(2)では、合成したセレノシステイン誘導体を用いて様々な金属錯体の合成を検討し、その構造解析を行った。ミッション(3)では、合成した環状セレノペプチドのGPx触媒活性の評価を行い、GPxの作用機序について活性中心に存在する触媒テトラッドの重要性を初めて実験的に証明することに成功した。さらに、別のセレン含有酵素であるチオレドキシンレダクターゼ(TrxR)の活性中心をモデル化したセレノペプチドの分子設計と合成にも着手し、合成に成功したいくつかのセレノペプチドについて抗酸化機能の評価を行った。ミッション(4)では、セレノグルタチオンの生理機能を評価するために、共同研究によって、培養細胞や小動物を用いた評価実験について研究を進めている。また、平成29年度に新規なインスリンアナローグとしてセレノインスリンを合成することに成功したので、この方法をさらに発展させることで、ヒトインスリンの効率的な化学合成にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画した4つのミッションのいずれにおいても、昨年度と同様に、当初の計画通りか、あるいは計画以上の研究成果を得ることができた。特に重要なものとしては、以下の成果を上げることができる。1.ミッション(1)において、βメチルセレノシステイン(L-セレノスレオニン)誘導体に加えて、そのエピマーであるL-アロセレノスレオニン誘導体の合成にも成功した。これを用いて触媒的不斉反応を行ったところ、アロ体ではエナンチオ選択性が逆転するという興味深い結果を得ることができた。2.環状セレノペプチドの合成については過去にほどんど報告がない。本研究では、分子内セレノシステインネイティブケミカルライゲーション法を用いることで、環状セレノペプチドを確実に合成できる手法を開発することに成功した(Chem. Commun., 2018, 54, 11737)。本法は様々な環状ペプチドの合成に有用なものとなるであろう。3.セレノシステイン置換インスリンアナローグ(セレノインスリン)の合成法を発展させることで、天然インスリンの酸化的フォールディング機構を完全に解明し、これを応用することでヒトインスリンの簡便かつ効率的な化学合成法(天然鎖アセンブリ法)を開発することができた(Communications Chemistry, 2018, 1, 26)。今後、糖尿病治療薬であるインスリンを大量かつ安価に市場に供給できる技術へと本手法が発展することが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き各種セレノシステイン誘導体の合成とそれを用いたセレノペプチドの分子設計と合成を進めていく計画である。ミッション(1)では、セレノスレオニン誘導体を用いた触媒的不斉反応の条件検討を進め、不斉収率のさらなる向上を図る。ミッション(2)では、合成したセレノシステイン誘導体をポリマーに担持させた新規マテリアルの合成を検討し、セレノシステイン担持ポリマーの機能開発を進める。ミッション(3)では、セレン含有チオレドキシンレダクターゼ(TrxR)の活性中心をモデル化したセレノペプチドを多種類合成して、アミノ酸配列と酵素類似触媒活性との相関を解析することで、TrxRの作用機序を分子レベルで明らかにする。ミッション(4)では、セレノグルタチオンの生理機能の評価結果をまとめ、セレノグルタチオンの薬剤としての利用の可能性について提示する。
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Causes of Carryover |
おおよそ当初の計画通りに研究費を使用しているが、初年度に購入予定であった低温反応装置(約70万円)の購入を取りやめたため、余剰金が7万円弱生じている。余剰金は今年度の助成金と合わせて、物品費や旅費として有効に使用する計画である。
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Research Products
(16 results)