2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of new emissive species containing d10 metal in the excited states
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17K05816
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
坪村 太郎 成蹊大学, 理工学部, 教授 (70188621)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西川 道弘 成蹊大学, 理工学部, 助教 (60711885) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 金属錯体 / 発光 / リン光 |
Outline of Annual Research Achievements |
下記のd10錯体の新規合成や発光の特性を明らかにした。 [1] 発光性銅(I)カルベン錯体の合成 以前私共は2座カルベン配位子を有する銅錯体(銅原子を2こ含むもの)を合成し、すでに2報の論文としてまとめていたが、本年はさらにカルベン配位子の置換基を変更することで新しいタイプの錯体を得ることができた。中でも興味深い結果はイソプロピル基を有する銅錯体である。従来8の字型構造と呼んでいる構造で、2つの銅原子間の距離が短い場合に強発光性を示すとしてきたが、今回得られた発光性錯体は、銅原子間の距離が非常に長いことが分かった。この錯体の発光の原因について詳細に解析を行った。また、新たなタイプのコンホメーションを有する二核錯体も得ることができた。 [2] 拡張π共役系配位子または水溶性配位子を有する銅(I)錯体の合成と発光特性 錯体を光化学反応の増感剤として使用するためには励起状態の寿命が長いこと共に、長波長側の光まで吸収する性質が望ましい。そこで配位子のπ共役系を拡張し、その配位子を含む銅錯体の合成を行ったところ、吸収波長が長波長化し、励起状態の非常に長寿命な錯体を得ることができた。また、29年度まで研究分担者であった西川博士の研究を一部引き継ぎ、スルホン酸基を含む配位子を用いて水溶性の新規銅(I)錯体を合成した。これらの一部は水溶液中で弱いながらも紫外線照射によって発光を示すことを明らかにした。 [3] ジホスフィンオキシド配位子を含む銀(I)錯体 ジホスフィンジオキシド配位子を含む銀錯体の合成法を確立し、それが緑色発光を示すことを明らかにした。 [4] ホスフィンを含むパラジウム(0)錯体 単座ホスフィンを含むパラジウム(0)錯体は有機合成の触媒としては非常によく知られているが、発光性はほとんど報告されていない。29年度に研究した錯体の量子化学計算を行い、その励起状態の解明を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時には、d10金属を用いて新たな長寿命励起種を複数提案することを目的とした。特に系統的に銅(I)、銀(I)、Pd(0)などの新規金属錯体を合成し、さらに分光学的な手段により錯体の発光特性を解明することが目指した点であった。また発光励起状態の解明のためにDFTとTD-DFTのような計算化学の手法から発光機構の解析を行うこととしていた。 本年度は上記の[1]-[3]に示すように発光性銅(I)カルベン錯体、拡張π共役系配位子を有する銅(I)錯体、水溶性銅(I)錯体、ジホスフィンオキシド配位子を含む銀(I)錯体の新規合成に成功し、光物理的な性質の測定を行った。これにより発光励起状態を多くの場合帰属することができた。これにより大半の目的は達成したと言える。発光性を発光量子効率と発光寿命で評価すると、同じような構造の錯体でも非常にそれらの値が異なる場合があることが判明した。 また上記[4]に示すように単座ホスフィンを含むパラジウム(0)錯体について2018年は量子化学計算を行い、その励起状態の解明を行った。これにより、極めて珍しいパラジウム錯体の発光現象についてその理由を明らかにすることができた。 学会発表は以下に示すように、国際学会を含めて様々に行うことができ、このことも順調に進展していることの現れということができる。当初の交付申請書には2018年の研究計画として「時間的に余裕があれば亜鉛(II)やガリウム(III)の発光種の合成も検討したい」と記入したが、残念ながらそのような金属種の研究にまでは至ることができなかったので、「概ね順調」という評価としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに合成した多数の錯体の中には、キャラクタリゼーションが完全でない場合や、発光機構が今ひとつ明らかになっていない錯体が含まれている。本年はこれらをまとめて論文とすることをまずは行っていきたい。まとめていきたい系としては下記がある。 [1] ジホスフィンとジイミンを配位子とする単核銅(I)錯体 前述の拡張型π共役系配位子を有する錯体について、励起状態の電子状態計算などの解析を含めて錯体の光物理特性の考察を行う。特に一部の錯体は発光強度は弱いにもかかわらず、数百マイクロ秒という極めて長い発光寿命を有することが判明している。これは極めて特異的な現象であり、その原因を探る。 [2] カルベン配位子を有する二核銅(I)錯体 昨年ドイツの研究グループが私共が以前報告した銅(I)錯体と同様な構造を有する銅(I)二核錯体について、対イオンが発光特性に重要であるとする論文を発表した。このグループの著者の一人とは学会においてディスカッションを行ったが、彼らの主張は必ずしもいつも適用できるわけではないように思われる。対イオンの発光への影響を含めてカルベン配位子を有する銅(I) 錯体の発光特性についてさらなる研究を行う。 [3] ホスフィン配位子を有するパラジウム(0)錯体 一昨年から昨年にかけて、非常に珍しいとされるパラジウム錯体の発光をまとめるべく研究を行ってきた。ようやく計算による励起状態の解析もほぼ終了したため、この研究をまとめ発表したい。 進捗状況の欄にも記したが、同じような構造の錯体でも非常にそれらの値が異なる場合があることが判明した。これらについて系統的な解釈をすることが今後の課題である。
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Causes of Carryover |
データ整理に大学院生を雇用する予定であったが、結局2018年度はその必要がなくなり、5万円弱の残額が生じた。次年度は研究をまとめるための費用としたい。
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Research Products
(6 results)