2018 Fiscal Year Research-status Report
光熱電機能開拓を目指したチエノイソインジゴ系狭エネルギーギャップポリマーの探索
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17K05830
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
芦沢 実 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (80391845)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 英俊 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (40345393)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | チエノイソインジゴ / キノキサリンイミド / 光熱電変換 / 電界効果トランジスタ / 近赤外光吸収 / キャリア輸送特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
狭いエネルギーギャップ(<1.0 eV)を持つ有機分子は、近赤外領域に効率的な光吸収特性を示し、ホール輸送(p型)と電子輸送(n型)を両立するアンバイポーラ特性の発現に有利である。近赤外光は身近に利用できるエネルギー源であり、また高い生体透過性という特徴を持つ。光熱電変換素子は光から熱を介して電気エネルギーを出力する素子である。次世代の光熱電変換素子には、素子構成の点からp型及びn型特性の両立とともに、近赤外領域から赤外領域にわたるエネルギーを有効活用する技術が要求されている。またホール輸送性のp型骨格に比べて電子輸送性のn型骨格の開発は遅れている。 我々はチエノイソインジゴ(TII)骨格を主体とした狭いエネルギーギャップを持つp型ポリマー(PTII)を開発してきた。さらに昨年度は電子吸引性のチアジアゾール骨格を、同じく電子吸引性のキノキサリンイミド(QI)骨格に縮間させた、チアジアゾロキノキサリンイミド(TzQI)骨格の合成に成功した。このTzQI骨格は大気安定な低いLUMOレベルを実現する。TzQI骨格を用いたいくつかの低分子の開発に成功し、2次元的な伝導パスを構築し大気下で安定した電子輸送を実現することを見出した。本年度はこのTzQI骨格を用いて、反応条件を再検討することでチエニルジケトピロロピロール(TDPP)骨格とクロスカップリングしたより高分子量のポリマー(TzQI-TDPPポリマー)を合成した。このポリマーは狭いエネルギーギャップを持ち、電界効果トランジスタで大気安定な電子輸送を実現する。新たにp型のPTIIポリマー及びn型TzQI-TDPPポリマーを用いて光熱電変換素子の作成条件を検討し、特性を評価した。これらの成果を学術雑誌(ACS Appl. Polym. Mater. 2019, 1, 542-551)に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で提案したチエノイソインジゴ骨格のチオフェン環をより電子吸引性の強いチアゾール環で縮環した、新規の電子輸送性n型骨格(TzII)の合成を引き続き行った。その結果TzII骨格を構築する前駆体の合成まで成功した。しかし標的のTzII骨格は大気化で不安定であり、ポリマー化する際のカップリング反応前駆体を合成することが出来なかった。そこで新たな電子輸送性n型骨格開発を目指した。 チエノイソインジゴ骨格に着目し、チオフェン環をキノイド構造にすることで、芳香族性の獲得による、LUMOレベルの低下を狙う分子設計を行った。チエノイソインジゴ骨格を合成する前駆体のチエノイサチンに着目し、フッ化銀を用いる酸化的カップリング反応を用いて、ビスチエノイサチンを合成した。このビスチエノイサチンに対して、チオフェン及びベンゼンのグリニャール試薬を反応させ、還元することで目的のキノイド構造を有するビスチエノイサチン誘導体を合成した。この新規分子の電子物性調べ、理論計算と合わせて電子構造を明らかにした。その結果、チエノイソインジゴのベンゼノイド構造に比べて、キノイド構造にすることで予想通りLUMOレベルは低下することを見出した。さらに単結晶を作成し、単結晶構造解析を行った。分子内の結合長を比べることにより、キノイド構造に基づく結合交替を調べた。またキノイド構造のビスチエノイサチン骨格は完全平面構造をとり、分子間で1次元的で密な積層構造を形成する。これらの分子の、蒸着膜を用いた電界効果トランジスタはアンバイポーラ特性を示した。この成果は、チエノイソインジゴ骨格がホール輸送特性を示すのに対して、キノイド性を持たせることで電子の注入も可能にしたという点に意義がある。低分子及びポリマーの構成骨格となる新規骨格を開発したことを鑑みて、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度、新規に開発したキノイド構造を有するビスチエノイサチン骨格を組み込んだチエノイソインジゴポリマーへの展開を試みる。チエノイソインジゴ骨格自身が狭いエネルギーギャップの構築に有利であり、またキノイド構造は芳香族性の獲得によるLUMOレベルを低下させる。したがって従来の狭エネルギーギャップポリマーでは実現できなかった、近赤外から赤外領域にわたる光吸収特性を示す可能性がある。また特異的に狭いエネルギーギャップは光や熱による励起を可能にし、単一成分で導電性を示す可能性があると考えている。今後の展開として、ビスチエノイサチン骨格をポリマー化するためのクロスカップリング前駆体へ導く合成法を開拓する。また我々が開発した電子輸送性骨格であるキノキサリンイミド分子を基本にした、新規骨格の開発は引き続き行う。 本研究課題の提案段階では、計画に組み込んではいなかったが、近赤外領域の光を用いた光熱変換材料に対する需要が特に生化学の分野において高まりつつある。すなわち本研究課題で開発したポリマーは、近赤外領域のより長波長領域に効率的な吸収特性を示す。学術雑誌(ACS Appl. Polym. Mater. 2019, 1, 542-551)に発表したように、1700nmの近赤外光を用いた光熱変換は、これまでに光熱変換に用いられてきた近赤外光の中で、最も長波長である。また比較的優れた光熱変換効率(~30%)を示す。長波長の近赤外光は生体への高い透過性があるともに、生体組織にダメージを与えない優れた利点がある。したがって特に光熱変換に着目したチエノイソインジゴ分子の開発と、この領域の光を熱を介してセンシングする素子への展開を考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は2018年9月1日から2019年4月1日までスタンフォード大学のZhenan Bao研究室に客員研究員として出張し、先方の研究室における研究課題に取り組んだ。従って次年度に繰り越す助成金が生じた。本年度は、本研究課題を遂行するために主として素子作製及び評価に使用する費用に充てる予定である。
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Research Products
(11 results)